警備の受注単価は、業務区分・地域・発注ルート・時間帯・有資格者要件など多様な要因で決まります。一方で、公的な統計は公共工事設計労務単価に限定され、民間案件については 業界一般論としての目安 が語られるに留まります。
本記事では、警備の単価相場を 5つの視点(業務区分・地域・発注ルート・時間帯・資格) で総覧し、発注者・警備会社経営者・業界研究者が相場を把握する際の物差しになる情報を整理します。
1. 警備の単価相場を語る前に:公的統計の限界
公共工事設計労務単価が唯一の公的データ
日本で警備員の単価を公的に定めているのは、国土交通省の 「公共工事設計労務単価」 です。この単価は以下の特徴を持ちます。
- 年1回更新:毎年3月に翌年度の適用単価が公表
- 都道府県別・業務別:47都道府県 × 交通誘導警備A・Bで公開
- 公共工事の積算用:あくまで公共工事の設計・積算用の単価で、民間案件の請求単価ではない
- 交通誘導警備のみ:施設警備(1号)・貴重品運搬(3号)・身辺警備(4号)は非公表
詳細は47都道府県別 警備労務単価インデックスで確認できます。
民間案件の相場は「業界一般論」
民間案件の警備単価について、公的な統計は存在しません。業界内で語られる目安(例:「請求単価は労務単価の1.3〜1.6倍」)は参考値であり、案件・地域・警備会社により大きく変動します。
したがって、本記事の相場情報は 編集部が業界内で観察した参考値 です。確定金額ではなく、実際の発注は必ず複数社見積もりで確認してください。
2. 業務区分(1〜4号)別の相場観
1号:施設警備
- 単価形態:時給ベースが中心(1,200〜2,500円程度)
- 配置形態:24時間常駐・日勤のみ・夜間のみなど多様
- 相場観:常駐の1人あたり月額20万〜60万円程度が業界で言及される目安
- 特徴:長期契約が多く、単価変動は小さい
業態別の月額相場は店舗警備の発注・マンション警備の発注で整理しています。
2号:交通誘導・雑踏警備
- 単価形態:日給ベースが中心(8時間で1〜2万円台)
- 参照基準:公共工事設計労務単価が業界の物差しとして機能
- 地域差:47都道府県で日額の差が大きい(47県別インデックス)
- 繁忙期変動:ゴールデンウィーク・夏季・年末年始に単価が上がるケースが業界で観察される
公共工事設計労務単価(交通誘導警備員A)の主要県サンプル(国土交通省公表・2025年3月適用ベース、正確な最新値は必ず47都道府県別インデックスで確認):
| 県 | 単価水準(1日8時間・目安) |
|---|---|
| 愛知(全国トップ) | 20,900円/日(+59.5%・2016比、詳細分析) |
| 東京 | 全国上位(詳細はインデックス) |
| 大阪・神奈川・北海道等 | 全国中位〜上位 |
| 地方県(低位) | 全国平均を下回る水準 |
長期トレンドは警備労務単価8年で+38.2%上昇、地域格差の背景は地域格差の背景で分析しています。上記は公共工事の設計積算用単価であり、民間案件の請求単価とは異なる 点に注意。
工事現場向けは工事現場警備の発注、イベント向けはイベント警備の発注、交通誘導詳細は交通誘導警備の相場で整理しています。
3号:貴重品運搬警備
- 単価形態:案件ごと(現金輸送1件あたり数千円〜数万円)
- 特徴:参入障壁が高く、上場3社を中心とする少数プレイヤーが担う傾向
- 公表相場:業界の公表統計は限定的で、個別案件・契約による
4号:身辺警備
- 単価形態:時間単価または日給(数万円〜数十万円)
- 特徴:特殊性が極めて高く、対応可能な事業者は限定的
- 公表相場:業界の公表統計は基本的にない、個別交渉
3. 地域別の相場観(労務単価ベース)
都道府県別の相場差
公共工事設計労務単価では、都道府県ごとに交通誘導警備員A・Bの単価が異なります。
- 上位県:愛知・東京・大阪など経済圏の中心・製造業集積地
- 中位県:地方中核都市(福岡・広島・仙台など)
- 下位県:地方の建設投資規模が相対的に小さい県
都道府県別の詳細は47都道府県別 警備労務単価インデックスで全県比較できます。地域格差の背景は地域格差の背景、愛知が単価トップの理由は愛知の単価トップ分析で解説しています。
単価上昇の長期トレンド
労務単価は長期的に上昇傾向です。詳細は警備労務単価 8年で+38.2%上昇、経営者視点は労務単価の経営示唆、2026年適用版の分布は2026年適用の労務単価分布で整理しています。
4. 発注ルート別の相場(公共 vs 民間)
公共案件
- 予定価格の根拠:設計労務単価に諸経費・現場管理費を加算
- 落札率:概ね70〜100%のレンジ(最低制限価格や調査基準価格が影響)
- 競争特性:業者数の多さ・価格競争の激しさ
詳細は警備業の公共入札の仕組みで整理しています。
民間案件
- 設定方式:警備会社が見積提示 → 相見積もりで比較
- 参考値:業界で「労務単価の1.3〜1.6倍程度」が編集部の観察範囲で言及される(公的統計ではない)
- 契約期間:多くが1〜3年、更新型が中心
業態別の発注実務は以下で整理しています。
5. 相場を左右する4要因
要因① 時間帯(夜間・休日・深夜)
労働基準法・警備業法上、深夜(22時〜5時)・休日・法定時間外の勤務には割増賃金が必要です。単価にはこの割増が反映されるため、時間帯により相場が変動します。
- 夜間割増:25〜50%程度
- 休日割増:35%程度
- 深夜割増:25%程度(他の割増と重複可)
要因② 有資格者(検定・指導教育責任者)
警備員検定(1号・2号・3号・4号の1級/2級)・警備員指導教育責任者資格を保有する警備員は、業界内で単価が高い傾向として言及されます。ただし具体的な倍率は警備会社・案件により変動します。
資格制度の詳細は警備業の認定制度、資格の経済価値は検定合格者の価値で整理しています。
要因③ 繁忙期・閑散期
以下の時期に警備員の需給がひっ迫し、単価が上昇するケースが業界で観察されます。
- ゴールデンウィーク・夏季フェスシーズン
- 年末年始
- 建設繁忙期(3月末など)
- 大型イベント開催時期
要因④ 地域・案件規模
- 地方開催:宿泊費・交通費が別途加算
- 大規模案件:ボリュームディスカウントが交渉可能な場合あり
- 緊急・臨時:スポット案件は単価が高くなる傾向
6. 相場を交渉する際の実務Tips
発注者側の視点
- 公共工事設計労務単価を物差しに:交通誘導警備なら47都道府県別インデックスを参照
- 複数社見積もり:3社以上の相見積もりで市場相場を把握
- 単価内訳の要求:労務費・諸経費・利益率の内訳を確認
- 契約期間・自動更新条項の確認:契約書の細部確認
詳細は警備会社の選び方・警備入札仕様書の読み解き方で整理しています。
経営者側の視点
- 業界の長期トレンド把握:労務単価の上昇と請求単価のギャップ管理
- 業種特化・地域密着による単価向上:中小警備会社の差別化戦略
- DX投資による原価削減:警備業SaaS 5社比較
7. 相場データを比較する視点
業界統計との併読
警備業の相場を語る際は、業界全体のマクロ動向(業界全体マップ・市場規模インデックス・人手不足の正体)とセットで見ることが重要です。
業界の中長期論点
労務単価は上昇し続けている一方、公共案件の落札価格は同ペースで上昇していない可能性があります。この単価と落札のギャップは業界の倒産増加(記事)の遠因の一つと考えられます。詳細は警備業の公共入札の仕組みを参照してください。
8. 出典・参考データ
- 国土交通省「公共工事設計労務単価」: https://www.mlit.go.jp/
- 警察庁「警備業」ページ: https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/keibigyou/index.html
- 全国警備業協会: https://www.ajssa.or.jp/
9. 警備ラボの関連レポート
- 47都道府県別 警備労務単価インデックス — 唯一の公的単価データ
- 警備業界 全体マップ 2026 — 業界の4階層構造
- 警備の費用シミュレーター — 都道府県別の費用試算
- 警備業界の元請・協力会社構造 — 単価が下がる構造要因
- 警備業の公共入札の仕組み — 公共単価の決まり方
- 警備労務単価 8年で+38.2%上昇 — 単価の長期トレンド
- 警備業の倒産が過去最多 — 単価問題の帰結
業態別の相場詳細
- 警備の費用相場 — 業態横断の相場
- 交通誘導警備の相場 — 2号警備の詳細
- 工事現場警備の発注 — 建設現場
- イベント警備の発注 — 雑踏警備
- 店舗警備の発注 — 業態別月額
- マンション警備の発注 — 規模別月額
編集部の見立て:警備の相場は業界の実務・法制度・市場競争の総体として形成されています。公共工事設計労務単価という唯一の公的データを起点に、業務区分・地域・発注ルート・時間帯・資格の各要因を横断的に理解することが、発注者にとっても警備会社経営者にとっても意思決定の土台となります。警備ラボとしては、労務単価データの継続的な整理と、業界の相場に関する情報の透明化を通じて、業界の意思決定インフラとしての役割を果たしていきます。