「警備業界は人手不足だ」――業界関係者の体感として広く共有されているこの認識を、警察庁が公表する5年分(2020〜2024年末)の警備業データで構造的にほどくと、「警備員数は横ばい・需要は拡大・年齢構造は高齢化」 という3層のクロスで説明できる現象であることが見えてきます。本記事では、業者数・警備員数・年齢分布・勤続年数のデータを並べて、人手不足の正体を整理します(2026年6月時点)。

元データは 市場規模インデックス(/data/keibi-gyoukai/) に集約しています。本文中でも繰り返し参照してください。

※ 本記事は警察庁「令和6年における警備業の概況」(reiwa6data.csv、2020〜2024年末の5年分実値)に基づく解説です。「人手不足」という現象は地域・業務区分・業者規模で大きく分散します。マクロデータの一断面として読んでください。

警備業の人手不足構造クロス分析グラフ|警備員+0.1% 業者+6.8% 60歳以上46.9% 1年未満17.6%(警察庁データ)

警備業の人手不足を4指標で可視化(出典:警察庁・国土交通省/編集部整理)

このデータの読み方|先に押さえる前提

「人手不足」をデータで定義する

「人手不足」は感覚的に語られがちですが、データで構造的に整理するには 需要側(業者数・対象施設)と供給側(警備員数・年齢・勤続)のギャップ を見ることが基本です。本記事では次の4指標をクロスで読みます。

  • 警備員総数(5年推移):供給側のマクロ指標
  • 警備業者数・機械警備対象施設:需要側の代理指標
  • 年齢分布:将来の供給見込み
  • 勤続年数分布:入職・離職の均衡状態

5年分の数値・前年比は /data/keibi-gyoukai/ で公開しています。

「人手不足」の感覚と数字のすり合わせ

業界の体感としての「警備員が足りない」「採用が難しい」と、データで見える「警備員総数+0.1%」の横ばいは、一見矛盾するように見えます。本記事のゴールは、この 感覚と数字をすり合わせる構造説明 を提供することです。

警備員数横ばい・需要拡大|需給ギャップの基本構造

供給側:警備員総数の5年推移

警備員総数前年比
2020588,364
2021589,938+0.3%
2022582,114-1.3%
2023584,868+0.5%
2024587,848+0.5%

5年で +0.1%(実質横ばい)。供給能力は5年間で実質的に変わっていません。

需要側:業者数・機械警備対象施設の5年推移

指標202020245年変化
警備業者数10,12410,811+6.8%
機械警備対象施設3,176,5443,423,470+7.8%

業者数+6.8%、機械警備対象施設+7.8%。需要側の代理指標は供給側よりも明確に伸びています。

需給ギャップを言語化する

警備員1人あたりの「カバーすべき業者」「カバーすべき機械警備施設」が増えている、というのが5年データから読める基本構造です。

指標20202024変化
1社あたり警備員数58.1人54.4人-6.4%
警備員1人あたり機械警備施設5.4件5.8件+7.7%

数字の上でも、供給1単位あたりの負担は5年で増えています。これが業界感覚としての「人手不足」を支える基本構造です。

年齢構造|現在の供給を高齢層が支えている

警備員の年齢分布(2024年末)

年齢層人数構成比
30歳未満61,20410.4%
30〜39歳53,0559.0%
40〜49歳80,60113.7%
50〜59歳116,95819.9%
60〜64歳74,43512.7%
65〜69歳78,67613.4%
70歳以上122,91920.9%

主要な集計値:

  • 60歳以上:46.9%(60〜64歳 + 65〜69歳 + 70歳以上)
  • 70歳以上:20.9%(5人に1人)
  • 40歳未満:19.4%(30歳未満 + 30〜39歳)
  • 50歳以上:66.9%

警備員の 3人に2人が50代以上、5人に1人が70代以上 という年齢構造です。これは他産業と比較しても明確に高齢の年齢構成で、業界全体が 高齢層の現役継続によって供給能力を維持 している状態と読めます。

高齢化が示す将来リスク

70歳以上が20.9%(約12.3万人)を占めるということは、健康・体力面でリタイアが今後5〜10年でまとまって発生するシナリオが現実的にあり得ます。仮に70歳以上の半数(約6万人)が今後5年で離職した場合、新規入職がそれを上回らない限り、警備員総数は5年で-10%程度の減少リスクを抱えていることになります。

これは概況に明示されていない 仮説ベースのリスク ですが、年齢構造のデータから論理的に整理できる将来課題です。

勤続年数構造|入職と離職のバランス

警備員の勤続年数分布(2024年末)

勤続年数人数構成比
1年未満103,50717.6%
1〜3年未満122,24320.8%
3〜10年未満187,90732.0%
10年以上174,19129.6%

1年未満が17.6%、1〜3年未満が20.8%。合わせて 38.4% が3年未満の在籍者 です。新規入職は一定数あり、警備業界は他産業と比較して中途入職者の比率が高い構造を持ちます。

入職と離職の均衡状態

警備員総数が5年で+0.1%の横ばいということは、 (1) 一定の新規入職が続き、 (2) 同程度の離職(高齢・健康・転職)が起きている、という均衡状態を意味します。1年未満の入職者17.6%(約10.3万人)が毎年入ってきて、それと同程度の離職が起きている、という流入量です。

問題は この均衡が需要拡大に追いついていない ことです。需要側が+6.8〜7.8%で伸びている中で供給が均衡を保っているだけでは、需給ギャップは構造的に拡大する一方になります。

入職者の定着が業界課題

1年未満17.6% → 1〜3年未満20.8% → 3〜10年未満32.0% → 10年以上29.6% という分布は、 入職後3年を超えると定着する 傾向は読み取れます。3年の壁を超えるサポート設計が、業界全体の供給力底上げの鍵になります。未経験者の入り口の論点は未経験から警備員へ、定着・キャリア継続の論点は警備員の年収完全ガイド を参照してください。

「人手不足」が示す3つの示唆

経営者向けの示唆

供給制約が構造的にあることを前提にした打ち手として、データから読めるのは次の3つです。

  1. 機械警備への業務シフト:機械警備対象施設は5年で+7.8%伸びており、業界として人力から機械への代替が進む方向。詳細は機械警備市場+7.8%成長 を参照
  2. DXによる1人あたり生産性向上:配置管理・勤怠管理・請求管理の自動化で、警備員1人あたりが担える案件量を増やす。警備業向け業務システム比較 で主要システムを整理
  3. 高齢者・短時間勤務に対応した雇用設計:70歳以上が20.9%という現実を受け入れ、体力負荷を抑えた現場・短時間シフトの設計を組み込む

労務単価が2019→2026年に+38.2%上昇している現実(出典:国土交通省 公共工事設計労務単価)と組み合わせると、 単価上昇分を価格転嫁しつつ、原価を圧縮する両面の打ち手 が経営アジェンダになります。詳しくは警備会社経営者向けの単価データ解説 を参照してください。

発注者向けの示唆

供給制約は発注側にとっても予算・契約の論点です。

  1. 中期予算は労務単価上昇率を織り込む:前年比+5〜7%を起点に
  2. 契約書に料金改定条項を明文化:長期関係維持のための公的単価連動・最低賃金連動・年次見直しの3パターン
  3. 機械警備での代替可能領域を見直す:常駐警備の一部を機械警備に置き換える検討

発注者向けの詳細整理は警備料金は今後どうなるか、業務別の発注ガイドは警備会社の選び方ガイド を参照してください。

現場の警備員向けの示唆

供給制約が続く中、現役の警備員にとっての論点は次のとおりです。

  1. 資格取得による単価上昇への参加:交通誘導A単価は2019→2026年に+38.2%上昇しており、資格保有者の単価メリットは構造的に強まる方向。詳細は警備員の資格・検定一覧 を参照
  2. 業務区分の選択:機械警備・3号警備など特化型領域は需要拡大の余地が大きい
  3. 長期勤続の安定性:勤続3年を超えた人材は業界全体で求められる構造、定着メリットが効きやすい

年収のリアルは警備員の年収完全ガイド、未経験から始める入り口は未経験から警備員へ で解説しています。

なぜ警備員数だけが伸びないのか|推測される構造要因

警備員総数が+0.1%横ばいの背景について、警察庁の概況には明示の分析はありません。ここでは公開データから読み取れる 構造要因の仮説 を3つ整理します。

仮説①|他業界との人材獲得競争

警備員総数は横ばいですが、 (1) 建設業の技能労働者不足 (2) 物流ドライバーの2024年問題 (3) 介護・サービス業の人手不足、と他業界も同様の競争環境にあります。労働力人口全体が縮小する中で、警備業界が他業界から人材を引き寄せきれていない状態が示唆されます。

仮説②|業界イメージと採用ブランディング

警備員という職種への業界外イメージは、給与・キャリア・働き方の各面で改善余地があると言われます。労務単価が+38.2%上昇し、賃金は構造的に上がっているのに、 業界の魅力訴求が需要側の伸びに追いついていない 可能性があります。業界の現実イメージと数値の対比は警備員の年収完全ガイド で整理しています。

仮説③|高齢層の自然減と入職層のミスマッチ

70歳以上が20.9%という構造では、健康・体力面での自然リタイアが毎年一定数発生します。新規入職層(1年未満17.6%)がこれを補い続けることでようやく横ばいを維持している、という綱渡りの構造とも読めます。この均衡が崩れたとき、警備員総数の減少が顕在化するリスクが構造的に存在します。

このデータの限界と注意点

本記事の数値はすべて警察庁が公表する全国計の実値ですが、以下の点に注意して読んでください。

  • 「人手不足」の体感は地域・業務区分・業者規模で大きく分散:マクロデータの+0.1%横ばいは全国計の数字で、地域別・業務区分別では大きな振れ幅があります(市場規模インデックス でも都道府県別データは未収録として明記)
  • 入職率・離職率の直接データは未公表:勤続年数分布から推測しています
  • 「人手不足」≠「人材不足」:必要なスキル・資格を持った警備員の不足は、量的人手不足とは別の論点として存在します
  • 5年スナップショット比較の限界:景気循環・コロナ禍の影響を含むため、長期トレンドの一断面として読む必要があります

データの一次情報・更新日時はインデックスの各項目に明記しています。

まとめ|人手不足の正体は需給ギャップ+年齢構造

  1. 警備員+0.1% / 業者+6.8% / 機械警備+7.8% の需給ギャップ:供給は横ばい、需要は拡大
  2. 60歳以上46.9% / 70歳以上20.9% の年齢構造:将来の自然減リスクを内包
  3. 1年未満17.6%の入職と均衡する離職:入職と離職が均衡しているだけでは需要拡大に追いつかない

「警備業界の人手不足」は、感覚的な訴えではなく、この3層のクロスで構造的に説明できる現象です。経営者にとっては機械警備シフト・DX・高齢者対応雇用、発注者にとっては中期予算と契約条項の整備、現役警備員にとっては資格と業務区分の戦略選択――それぞれに公的データを根拠資料として持つことの価値は、年々高まっています。

データの詳細・5年分の前年比は市場規模インデックス(/data/keibi-gyoukai/) を、関連する構造分析は警備業者+6.8% vs 警備員横ばい機械警備市場+7.8%成長業務区分別の業者構成 をあわせてどうぞ。労務単価との関係は労務単価インデックス、年収のリアルは警備員の年収完全ガイド、未経験から始める入り口は未経験から警備員へ を参照してください(2026年6月時点)。