「来年度の警備予算をどう組むか」「契約更新の値上げ要請にどう対応するか」――警備業務を発注する立場の方が直面するこの問いに、公的データ で向き合うための解説記事です。
国土交通省「公共工事設計労務単価」の警備区分(交通誘導A・B)は、2019年から2026年までの8年間で全国平均が一貫して上昇し、交通誘導Aで +38.2%(年平均+4.7%)、しかも 8年連続でプラス成長 が続いています(出典:国土交通省 公共工事設計労務単価)。本記事では、この公的データから読み取れる 発注者としての備え を整理します(2026年6月時点)。
※ 本記事は公共工事設計労務単価という公的データに基づく一般的整理です。各案件の実勢価格・契約条件は地域・時期・発注内容で大きく変動します。実際の発注時は必ず複数社からの見積もりと最新の公的情報で個別確認してください。

警備労務単価8年の上昇推移(出典:警察庁・国土交通省/編集部整理)
このガイドが想定する発注者
本記事は、次のような 法人・団体としての発注者 を想定しています。
- 建設・道路工事業:交通誘導警備の継続発注
- マンション管理組合・ビル管理会社:施設・常駐警備の発注
- イベント主催者:雑踏警備・会場警備の発注
- 店舗・小売事業者:開閉店警備・現金輸送の発注
- 自治体・公共系発注者:公共工事・施設の警備発注
警備会社選びの基本的な手順は警備会社の選び方ガイドで別に整理しています。本記事は 料金動向そのものに焦点 を絞ります。
このデータの読み方|先に押さえる前提
公共工事設計労務単価とは
国土交通省が 毎年3月に改定 して公表する、公共工事の積算に使う労務単価で、警備区分は「交通誘導A」(資格者または同等の経験者)と「交通誘導B」(A以外)の2種類があります。8時間あたりの 賃金(円) が示されます。
公共工事の積算基準である一方、民間工事・施設警備・イベント警備の発注水準にも参照される 業界の共通指標 として機能しています。発注者として最低限知っておきたい数字です。
「警備料金」と「単価」の違い
注意点として、公的単価が示すのは 警備員個人の賃金 であって、警備会社への発注価格(人件費 + 必要経費 + 会社利益)ではありません。発注価格は、概ね以下の構造になります。
- 賃金単価(公的単価ベース)
- + 必要経費(社会保険料・教育費・装備費など、目安40%前後)
- + 会社利益(10〜25%程度)
労務単価インデックスでは、この経費込み参考値も合わせて公開しています。詳細は/data/roumu-tanka/ を参照してください。
過去8年の上昇トレンド|まず数字で確認
交通誘導A 全国平均(円/8時間)
| 年 | 単価 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2019 | 13,682 | +6.8% |
| 2020 | 14,053 | +2.4% |
| 2021 | 14,364 | +2.1% |
| 2022 | 14,873 | +3.7% |
| 2023 | 15,967 | +7.1% |
| 2024 | 16,961 | +6.4% |
| 2025 | 17,931 | +5.7% |
| 2026 | 18,911 | +5.8% |
8年連続プラス成長。8年で+5,229円(+38.2%)、年平均+4.7%。コロナ禍を含む2020〜2021年でも上昇は止まらず、2023年以降は再加速 という流れです。
交通誘導B 全国平均(円/8時間)
| 年 | 単価 |
|---|---|
| 2019 | 11,998 |
| 2024 | 14,909 |
| 2025 | 15,752 |
| 2026 | 16,749 |
Bは同期間で +39.6% とAをやや上回るスピードで追随しています。
主要都道府県 2025年 交通誘導A 実値(円/8時間)
| 都道府県 | 2025単価 | 2018比 |
|---|---|---|
| 東京都 | 20,200 | +42.3% |
| 神奈川県 | 19,900 | +41.1% |
| 千葉県 | 19,300 | +40.9% |
| 愛知県 | 20,900 | +48.2% |
| 静岡県 | 20,200 | +47.4% |
| 岐阜県 | 19,600 | +48.5% |
| 大阪府 | 17,400 | +42.6% |
| 兵庫県 | 17,800 | +42.4% |
| 福岡県 | 16,600 | +38.3% |
| 北海道 | 17,500 | +37.8% |
| 宮城県 | 18,700 | +34.5% |
| 沖縄県 | 15,300 | +44.3% |
東名阪・中部圏で2万円台に到達。地域差は依然として大きく、最高(愛知 20,900円)と最低水準(沖縄 15,300円)で +36.6%の開き があります。データの全項目は労務単価インデックスに集約しています。
今後の見通し|上昇継続の根拠と限界
データから読み取れる「上昇継続」の根拠
公的データだけから断定はできませんが、以下の構造要因が同時並行で続いている ため、短期で反転する材料は限定的です。
- 人手不足の慢性化:警察庁「警備業の状況」でも、警備員不足は継続的な業界課題(出典:警察庁 警備業の状況)
- 最低賃金の連続引き上げ:全国加重平均で年+3〜5%の引き上げが続く(出典:厚生労働省 地域別最低賃金)
- 公的単価の積み上げロジック:単価改定が現場賃金を押し上げ、それがさらに翌年の公的単価に反映される循環構造
「いくら上がるか」は誰にも断定できない
注意点として、「2027年に何%」という数字は本記事では断定しません。過去3年の年平均上昇率が+5.7〜6.4%だった、という事実だけを根拠資料として扱います。
その上で、予算組みの起点として「前年比+5〜7%」を置く のが、過去データに照らして合理的な範囲です。
発注者の備え①|予算を構造的に組み直す
単年予算ではなく中期予算で見る
これまで「前年と同じ」で組んでいた発注予算を、3〜5年の中期予算 で組み直す動きが、発注者側でも出始めています。
- 3年間で+15〜20% の予算増を前提に計画
- 案件単位ではなく 総人時(人月)ベース で予算を持つ
- 上昇分を どの予算項目で吸収するか を経営層と合意
案件削減・統合の選択肢
予算が硬直的な場合は、警備の 必要量自体を見直す ことも選択肢になります。
- 機械警備への置き換え検討:常駐の一部を機械警備で代替できる業務がないか
- シフト・配置の最適化:必要時間帯の絞り込み、配置人数の見直し
- 発注先の集約:複数社発注を1〜2社に集約してボリュームディスカウントを取る
業務別の発注ガイドは下記からどうぞ。
- 交通誘導警備:交通誘導警備の相場と発注ガイド
- マンション警備:マンション警備の発注ガイド
- 店舗警備:店舗警備の発注ガイド
- イベント警備:イベント警備の発注ガイド
発注者の備え②|契約書に料金改定条項を明文化する
「改定条項なし」の契約が抱えるリスク
契約書に料金改定条項がない場合、警備会社側からの値上げ要請を 個別協議で都度判断 することになり、次のリスクが発生します。
- 改定の根拠が不明確で、社内承認に時間がかかる
- 改定タイミングが不揃いで、契約間で公平性が保てない
- 警備会社側が改定を諦めて品質低下 または 撤退する リスク
標準的な改定条項の3パターン
新規契約・契約更新時に、次のいずれかの条項を組み込むのが実務的です。
- 公的労務単価連動条項:「国土交通省公共工事設計労務単価の改定時に協議のうえ料金を見直す」
- 最低賃金連動条項:「地域別最低賃金の改定時に対応単価を見直す」
- 年次見直し条項:「年1回、双方協議のうえ料金を見直す」
これらを 「協議のうえ」 とすることで、自動値上げではなく 発注者側のチェックポイント も維持できます。
改定条項を導入する2つの利点
- 発注者側:根拠が明確なため社内決裁が円滑になる
- 警備会社側:定期的な見直しが約束されるため、無理な短期値上げ要求が減る
結果として 長期的な品質維持 に寄与します。受注側の経営視点は警備会社経営者向けの単価データ解説に整理しています。
発注者の備え③|公的単価データを協議の共通基準にする
値上げ協議でよくある対立構造
- 警備会社側:「人件費が上がっているので値上げしてほしい」
- 発注者側:「具体的にいくら上がっているのか根拠を示してほしい」
ここで議論が膠着するのを避けるため、公的単価データを共通の基準として最初に置く のが効果的です。
共通基準として使える3つのデータ
- 全国平均の上昇率:2019→2026で+38.2%、年平均+4.7%
- 発注地域の都道府県別実値:たとえば東京都内の発注なら、2018→2025で東京の交通誘導Aは+42.3%
- 直近3年の累積上昇率:2024→2026で+11.5%
これらは /data/roumu-tanka/ で誰でも確認できる公的データなので、双方が同じ画面を見ながら議論 できます。
案件単位の試算には費用シミュレーター
協議に向けて、案件単位の費用感を試算する場合は費用シミュレーターで、地域・人数・時間帯を入れた目安計算ができます。
このデータの限界と注意点
本記事で扱った数値は 公共工事設計労務単価 に基づくものであり、すべての警備案件の実勢価格を表すものではありません。
- 公的単価は積算基準であり、最終取引価格ではない:民間案件は需給と交渉で決まる
- 必要経費込み参考値 は経費率0.41で機械的に算出した参考値で、各社の経費構造とは異なる
- 2017・2019年の都道府県別データは未収録:一部年で全国平均のみ
- 2026年版の都道府県別データ は順次収録予定(最新の収録状況は労務単価インデックスの更新履歴を参照)
まとめ|発注者が今すぐ着手すべき3つの備え
- 予算組みの起点を「前年比+5〜7%」に:単年ではなく中期予算で組み直す
- 契約書に料金改定条項を明文化:公的単価・最低賃金・年次見直しの3パターンから選ぶ
- 公的単価を協議の共通基準に:/data/roumu-tanka/ を発注担当の標準資料にする
発注フローの全体像は警備会社の選び方ガイド、業務別の発注ポイントは交通誘導・マンション・イベントの各ガイドからどうぞ。案件単位の費用感は費用シミュレーターで試算できます(2026年6月時点)。