店舗・小売事業者として警備を発注検討する際、業務範囲が「開店警備」「閉店警備」「常駐警備」「機械警備」「現金輸送」と多岐にわたるため、最適な組み合わせを設計するのが意思決定の核心になります。警察庁の業界統計によれば、施設警備(1号業務)と貴重品運搬警備(3号業務)の2区分で店舗関連の警備需要を取り扱うのが業界の標準形です(出典:警察庁「警備業の状況」)。

本記事では、店舗・小売事業者の店長・運営本部・経営層が 店舗警備の発注検討を進める ための業務範囲・警備会社選定軸・費用相場・契約条件を業界視点で整理します。個人向け防犯ではなく、店舗事業者 としての発注実務にフォーカスします(2026年6月時点)。

※ 本記事は2026年6月時点の公開情報・業界一般論に基づきます。料金水準・契約条件・法令運用は地域・時期・各社方針で変動するため、実際の発注時は必ず各社の最新公式情報と見積もりで個別確認してください。

このガイドが想定する発注者

本記事は、次のような 法人・団体としての発注検討者 を想定しています。

  • 小売チェーン本部・運営会社:複数店舗の警備一括発注・契約見直し
  • 個店オーナー・FCオーナー:1店舗単位の警備新規発注
  • 商業施設のテナント運営者:施設共用部警備に加えた独自警備の発注
  • 新規出店プロジェクトの責任者:オープン前の警備体制設計
  • 大型小売店・家電量販店・宝飾店の店長:万引き対策・防犯体制強化

個人宅向けの防犯検討は本記事の対象外です。本記事は 事業者としての業務発注の意思決定 にフォーカスします。

店舗で発注できる警備業務の範囲

店舗関連の警備は警備業法上、業務内容によって号区分が分かれます。それぞれ警備業認定を受けた事業者だけが受託できます。

① 開店警備(朝の業務開始サポート)

朝の店舗解錠・商品搬入時の立ち会い業務です。1号業務(施設警備)に該当します。

  • 開店前の店内安全確認
  • 商品搬入時の見守り
  • 朝の防災設備チェック
  • 夜間警備からの引き継ぎ報告

宝飾店・高級時計店・コンビニ・ガソリンスタンドなど、開店時の現金・高額商品の取り扱いがある店舗で導入される形態です。1回あたり30分〜1時間程度の業務が一般的です。

② 閉店警備(夜の業務終了サポート)

夜の店舗閉店時の戸締まり・売上金管理サポート業務です。1号業務(施設警備)に該当します。

  • 閉店前の店内安全確認
  • 売上金の保管庫格納立ち会い
  • 戸締まり確認・施錠
  • 夜間機械警備への切り替え
  • 退店動線の確保

夜間の現金取り扱い・人気のない店舗周辺での退店リスクを軽減する目的で導入されます。1回あたり1〜2時間程度の業務が一般的です。

③ 営業時間中の常駐警備(万引き対策・トラブル対応)

営業時間中に警備員が常駐し、防犯と緊急対応にあたる業務です。1号業務(施設警備)に該当します。

  • 制服警備員による抑止
  • 私服警備員による巡回・監視
  • 不審者対応・トラブル対応
  • レジ周辺の現金管理サポート
  • 万引き発生時の現認・通報協力

家電量販店・大型書店・宝飾店・百貨店・スーパーマーケットなどで広く導入されています。配置時間は営業時間全体から夕方〜閉店までのピーク時間帯のみまで柔軟に設計可能です。

④ 機械警備(夜間の侵入監視)

センサー・カメラ・通報装置で異常を検知し、管制センターから警備員が駆けつける業務です。機械警備の基本構造は機械警備とは|仕組み・対応範囲と他号警備との違いで詳しく整理しています。

  • 閉店後の侵入監視
  • 防犯カメラの録画・遠隔監視
  • 火災・ガス漏れの信号受信
  • 異常時の駆けつけ対応

ほぼすべての店舗で標準導入されている形態で、夜間の防犯コストを抑える基本選択肢です。

⑤ 現金輸送警備(売上金の銀行搬送)

店舗の売上金を銀行へ搬送する業務です。3号業務(貴重品運搬警備)に該当し、1号業務とは別の認定が必要です。

  • 売上金回収・銀行搬送
  • 釣銭準備金の搬送
  • 専用車両・専用ケースでの輸送
  • 受領証・銀行入金確認の証憑提出

大手警備会社が広域でサービス展開しており、複数店舗チェーンでは一括契約するのが一般的です。

店舗業態別の警備形態の選び分け

業態・規模・取り扱い商材で最適な警備形態が変わります。業界で一般的に採用される目安は次のとおりです。

業態推奨形態の目安月額警備費の目安
コンビニ機械警備+現金輸送3万〜8万円
ガソリンスタンド機械警備+夜間巡回3万〜10万円
スーパーマーケット機械警備+夕方常駐15万〜40万円
家電量販店機械警備+日中常駐+現金輸送50万〜120万円
宝飾店・高級時計店機械警備+開閉店警備+日中常駐30万〜80万円
大型書店機械警備+夕方常駐20万〜50万円
百貨店24時間常駐+機械警備+現金輸送200万円以上
ドラッグストア機械警備+現金輸送5万〜15万円

これらは2026年6月時点の業界一般論で、店舗面積・時間帯・人員配置で大きく変動します。実際の費用は必ず複数社の見積もりで確認してください。

警備会社選びの6つの軸(店舗事業者視点)

店舗事業者として警備会社を比較する際の評価軸を整理します。発注検討全般の進め方は警備会社の選び方ガイド|失敗しない発注の進め方も参照してください。

① 該当号区分の対応実績

警備業法第4条の 警備業認定 と、依頼する業務に対応する号区分の許可を持っているかをまず確認します。

号区分業務内容店舗での該当業務
1号施設警備開閉店警備・常駐警備・機械警備
3号貴重品運搬警備現金輸送・売上金回収

複数の号区分にまたがる業務を1社にまとめて発注する場合、両方の許可を持っているかを契約前に確認します。号区分の詳細は警備員の年収完全ガイドでも整理しています。

② 同業態・同地域の運用実績

候補会社が 同業態(コンビニ・家電量販・宝飾店等)の警備運用実績 を持っているかは、運用品質と提案精度に直結します。

  • 同業態での警備受託店舗数
  • 同地域での運用拠点・営業所の有無
  • 既存契約クライアントの業態構成

業態固有の万引き手口・トラブル傾向への対応ノウハウは、警備会社の経験値で大きく差が出ます。

③ 警備員の配置安定性

業界全体の人材不足を背景に、配置の安定性は発注前に必ず確認すべき項目です。

  • バックアップ要員の配置体制
  • 当日欠員時の代替対応フロー
  • 同業態の有資格者(検定保有者)の在籍人数

業界全体の人材構造と動向は警備業界の2025年問題まとめで整理しています。

④ 料金体系の透明性

店舗警備の料金は 公的な定価が存在しません。同じ「閉店警備1回」「常駐1時間」でも会社によって単価設計が大きく異なります。

料金項目確認ポイント
単価ベース時間単価・1回単価・月額定額
深夜割増22時〜翌5時の割増率
休日割増法定休日の扱い
諸経費交通費・装備費・管理費の内訳
機械警備設備費初期費用・月額利用料・撤去費用
現金輸送料金1回単価・距離加算・保険料
最低発注時間短時間案件での最低時間計上

公共工事における警備員の労務単価は、国土交通省「公共工事設計労務単価」で公表されており、最新の都道府県別単価は警備の労務単価【最新版】で確認できます。民間取引の参考値として、店舗警備の費用妥当性検証にも活用できます。費用感の概算は警備費用シミュレーターも活用ください。

⑤ 複数店舗対応とチェーン展開実績

チェーン本部が一括発注する場合、複数店舗対応の体制が重要な評価軸になります。

  • 全国対応の拠点ネットワーク
  • 複数店舗の一括管理レポート機能
  • 出店・閉店時の柔軟な契約変更対応
  • 統一品質での運用基準

地域中小警備会社では複数地域対応が難しいケースが多く、全国チェーンは大手警備会社との一括契約が一般的なパターンです。

⑥ 契約条件と出店・閉店時の柔軟性

店舗事業者特有の事情を考慮した契約条件かを確認します。

  • 契約期間(多くは1年自動更新)
  • 解約予告期間(店舗撤退時の事業計画との整合)
  • 新規出店時の契約追加プロセス
  • 閉店時の機械警備設備の撤去費用
  • 料金改定条項(最低賃金改定との連動)

特に 店舗撤退時の契約終了条件 は、店舗事業者として必ず明文化しておくべき項目です。

店舗警備の費用相場(業界一般論)

繰り返しになりますが、警備業務に公的な定価はありません。業界で一般的に観察される費用レンジを整理します(2026年6月時点)。

開店警備・閉店警備の費用目安

業務形態1回あたりの費用目安
開店警備(30分〜1時間)5,000〜10,000円
閉店警備(1〜2時間)7,000〜15,000円
開閉店セット(毎日)月額20万〜40万円

常駐警備の費用目安

配置時間月額費用の目安
夕方〜閉店(4時間・週5日)15万〜30万円
営業時間中常駐(8時間・週6日)40万〜70万円
営業時間中常駐(私服+制服複数体制)80万〜150万円

機械警備の費用目安

設備規模月額利用料の目安初期費用の目安
小型店舗(コンビニ等)1万〜2万円10万〜20万円
中型店舗(スーパー等)2万〜4万円30万〜60万円
大型店舗(家電量販等)4万〜8万円60万〜150万円

現金輸送警備の費用目安

輸送頻度1回あたりの費用目安
売上金回収(週1〜2回)3,000〜8,000円
売上金回収(毎日)月額10万〜25万円
釣銭準備金搬送(週1回)5,000〜10,000円

常駐警備・現金輸送ともに人件費が大半を占めるため、最低賃金改定・労務単価改定の影響を直接受けます。長期契約では料金改定条項の有無が長期コストに大きく影響します。

発注の5ステップ(店舗事業者実務)

店舗事業者として警備会社を選定する標準フローを整理します。

Step 1:店舗運営課題の棚卸しと要件定義

店舗の防犯課題(万引き被害額、夜間トラブル件数、現金管理リスク)を棚卸しし、警備業務に求める要件を整理します。要件定義書の項目例は次のとおりです。

項目記載例
業務目的夕方〜閉店の万引き抑止と閉店警備
業務形態私服常駐警備+閉店警備+機械警備
配置時間16時〜閉店(20時)+閉店警備1時間
配置人数私服1名
期間2026年9月〜2027年8月(1年契約・自動更新)
緊急対応通報受信から20分以内駆けつけ

Step 2:候補警備会社のリストアップ

要件に該当する号区分・地域・実績を持つ会社を5〜10社程度リストアップします。情報源としては:

  • 警察庁・各都道府県警察の警備業認定一覧
  • 全国警備業協会の会員一覧
  • 同業他社からの紹介・業界口コミ
  • 既存契約の管理会社・本部の推薦リスト

Step 3:相見積もり依頼(2〜3社)

同一の要件定義書で 2〜3社からの相見積もり が業界標準です。回答期限は2〜3週間程度に設定し、見積書のフォーマット(月額・年額・初期費用・1回単価の明示)を事前指定すると比較しやすくなります。

複数店舗のチェーン本部発注では、サンプル店舗の見積もりに加えて、全店舗一括契約時のボリュームディスカウントも見積もり依頼に含めます。

Step 4:見積書の比較と現地確認

各社の見積書を以下の観点で比較します。

  • 月額・年額の総額
  • 単価内訳の透明性
  • 料金改定条項の明文化
  • 補償額上限
  • 業務報告書の様式
  • 同業態での実績

候補会社の担当者に店舗下見を依頼し、配置予定の警備員のプロフィール(経験年数・保有資格)も確認します。複数店舗チェーンの場合、本部訪問とサンプル店舗下見の両方を実施するのが一般的です。

Step 5:契約締結と業務開始

最終候補1社と契約条項を詰めます。必ず受領しておくべき書類は次のとおりです。

  • 業務仕様書
  • 緊急時連絡体制図
  • 警備員配置計画書
  • 保険証券のコピー
  • 警備業認定番号の証憑
  • 複数店舗の場合:店舗別の契約条件一覧

業務開始前に店長・運営本部担当者と警備会社の責任者で 顔合わせミーティング を実施し、業態固有のトラブル対応フローを共有しておくとトラブル予防に有効です。

大手警備会社と地域中小警備会社の選び分け

業界には大手・中堅・中小(地域密着)の事業者規模差があります。店舗警備の発注における選び分けの目安を整理します。

大手警備会社が向く店舗・チェーン

業界の大手企業としては ALSOK(綜合警備保障) セコム 全日警 東洋テック セントラル警備保障 などが代表的です(2026年6月時点の公開情報)。

大手警備会社が向くケース:

  • 全国チェーン本部の一括発注(コンビニ・家電量販・ドラッグストア等)
  • 機械警備+現金輸送の併用が必要な店舗
  • 24時間管制体制が要件
  • 上場企業・大手フランチャイズで帳票整備が要件
  • 全国均質な運用品質が要件

大手は機械警備設備・管制システム・現金輸送網が整備されている一方、地域密着の小回りでは中小に劣る場合があります。

業界内大手の公式情報は ALSOK公式セコム公式 でも確認できます(個人宅向けLPに法人発注の問い合わせ導線も掲載)。

中小・地域密着型警備会社が向く店舗

中小警備会社が向くケース:

  • 個店オーナー・地域FC の単一店舗発注
  • 特定エリア限定の案件
  • 柔軟な運用調整(時間調整・人員調整)を重視
  • コスト最適化を最優先
  • 店長と警備会社の直接コミュニケーションを重視

中小は経営層との距離が近く、現場運用の柔軟性で優位なケースが多いです。

店舗警備で起きやすいトラブルと予防策

発注後のトラブル事例として、業界でよく聞かれるものを整理します。

トラブル①:万引き発生時の対応範囲の認識ずれ

警備員の現認・通報協力までは契約範囲だが、店舗側が「身柄確保」まで期待してしまうケースがあります。

予防策:契約段階で警備員の権限と対応範囲を明文化(民間人としての現認・通報協力までが原則)、店舗側スタッフのトレーニングも並行実施。

トラブル②:機械警備の誤報増加

センサー設定や設備老朽化、店内レイアウト変更で誤報が頻発するケースがあります。

予防策:店内改装・什器変更時に警備会社へ事前連絡、誤報率の四半期報告を業務報告書に組み込む。

トラブル③:料金改定要請への対応

最低賃金の継続的な引き上げを背景に、契約期間中の料金改定要請が増えています。

予防策:料金改定条項を明文化(最低賃金10円以上の改定で再協議など)、店舗事業計画と整合する範囲で改定の許容範囲を予め設定。

トラブル④:店舗撤退時の機械警備設備の撤去費用

閉店時に機械警備設備の撤去費用・原状回復費用が想定外に発生するケースがあります。

予防策:契約段階で店舗撤退時の費用負担を明文化、契約期間途中の撤退ペナルティも確認。

店舗警備の業界構造を理解する

発注検討の意思決定の質を高めるため、業界構造の理解も有効です。

業界共通の労務単価動向は警備の労務単価【最新版】で都道府県別・経年で確認できます。料金改定交渉時の客観的な参考データとして活用できます。

発注検討時のチェックリスト

最後に、店舗警備の発注検討で確認すべき項目を整理します。

  • 警備業認定番号(都道府県公安委員会)が公式・見積書に記載されているか
  • 1号業務(施設警備)・3号業務(貴重品運搬)の許可が業務範囲と整合しているか
  • 同業態・同規模店舗での運用実績件数が確認できるか
  • 警備員指導教育責任者の選任状況が明示されているか
  • 私服警備・制服警備の使い分けが業務仕様に明記されているか
  • 機械警備の場合、機械警備業務管理者が選任されているか
  • 料金の単価内訳・諸経費が見積書で明確か
  • 料金改定条項が契約書に明文化されているか
  • 賠償保険の補償額上限が明示されているか
  • 解約予告期間が店舗事業計画と整合するか
  • 業務報告書の様式と提出頻度が運営本部の報告要件に適合するか
  • 機械警備設備の撤去費用・原状回復費用が明示されているか
  • 複数店舗発注の場合、店舗別の契約条件一覧が整理されているか

13項目すべてで問題がなければ、契約締結を進めて差し支えありません。

まとめ|店舗警備発注の3原則

店舗事業者としての警備発注は、次の3原則に集約されます。

  1. 業務範囲を分解して最適な組み合わせを設計:開店警備・閉店警備・常駐警備・機械警備・現金輸送を業態と店舗規模に合わせて組み合わせる
  2. 同条件で複数社比較し、総コストで判断:月額単価だけでなく、料金改定条項・初期費用・撤去費用を含めた3年・5年トータルコスト比較
  3. 店舗事業計画と整合する契約条件:解約予告期間・出店時の契約追加プロセス・閉店時の撤去費用を事業計画に合わせる

発注検討は警備会社にとっても重要な営業機会のため、十分な情報開示と店舗下見の依頼に応じてくれるのが通常です。情報を整理し、複数社で比較する姿勢が、結果的に運用品質とコストの両面で最適解につながります。

業務発注全般の進め方は警備会社の選び方ガイドで、マンション管理組合の警備発注はマンション管理組合の警備発注ガイドで整理しています。本記事は2026年6月時点の公開情報・業界一般論に基づきます。具体的な契約条件・料金・法令運用は必ず各社・各管轄窓口の最新情報でご確認ください。