マンション管理組合として共用部の警備を発注検討する際、最初に直面するのは「どの業務を、どの形態で、どこに依頼すべきか」という問いです。警察庁の業界統計によれば、施設警備(1号業務)は警備業全体の売上の約4割を占める基幹領域で、対応事業者数も全国で多数あります(出典:警察庁「警備業の状況」)。

本記事では、マンション管理組合の理事会・管理担当者が 共用部警備の発注検討を進める ための業務範囲・警備会社選定軸・費用相場・契約条件を業界視点で整理します。個人宅向けのホームセキュリティではなく、管理組合という法人格 としての発注実務にフォーカスします(2026年6月時点)。

※ 本記事は2026年6月時点の公開情報・業界一般論に基づきます。料金水準・契約条件・法令運用は地域・時期・各社方針で変動するため、実際の発注時は必ず各社の最新公式情報と見積もりで個別確認し、管理組合の総会決議を経たうえで進めてください。

このガイドが想定する発注者

本記事は、次のような 法人・団体としての発注検討者 を想定しています。

  • マンション管理組合の理事会:共用部警備の新規発注・契約更新・切り替え検討
  • 管理組合の修繕委員会・防犯部会:防犯体制の見直し・予算策定
  • マンション管理会社の担当者:管理組合からの相談に対応する立場
  • デベロッパー・新築分譲マンションの管理計画策定者:竣工後の警備体制の設計

戸建てや個人居住者向けのホームセキュリティ検討は別記事 ホームセキュリティ ALSOK vs セコム|料金・プラン徹底比較 を参照してください。本記事は 管理組合としての業務発注の意思決定 にフォーカスします。

マンション共用部で発注できる警備業務の範囲

マンションの警備は警備業法上の 1号業務(施設警備) に分類され、警備業認定を受けた事業者だけが受託できます。発注検討で扱える代表的な業務は次のとおりです。

① 巡回警備

警備員が決められた時刻・経路で共用部を巡回し、異常の有無を確認・記録する業務です。

  • 夜間巡回(22時〜翌5時に1〜数回)
  • 早朝・深夜の戸締まり確認
  • 不審者・不審物の確認
  • ゴミ集積所・駐輪場・駐車場の見回り
  • 巡回報告書の提出

中規模マンション(30〜200戸)で広く採用される形態で、常駐警備よりも費用を抑えられます。

② 常駐警備(有人警備)

警備員がエントランス・防災センター等に常駐し、受付・訪問者対応・防災設備の監視を行います。

  • エントランス受付・来訪者対応
  • 宅配・配送業者の出入管理
  • 防災センターでの監視盤対応
  • 駐車場・駐輪場の管理
  • 緊急時の初動対応

200戸以上の大規模マンションや、ホテルライクなサービスを志向する高級分譲マンションで採用される形態です。配置時間は24時間体制から日中のみまで設計可能です。

③ 機械警備

センサー・カメラ・通報装置で異常を検知し、管制センターから警備員が駆けつける業務です。機械警備の基本構造は機械警備とは|仕組み・対応範囲と他号警備との違いで詳しく整理しています。

  • 共用部出入口のセンサー監視
  • 防犯カメラの録画・遠隔監視
  • 防災設備の信号受信
  • 異常時の駆けつけ対応

巡回警備と組み合わせて運用されることが多く、人件費を抑えながら24時間体制を実現する選択肢として標準化しています。

④ 防災設備点検への立ち会い

消防法に基づく防災設備点検(年2回)の際の立ち会い・防災センター対応を警備業務に組み込むケースもあります。設備管理会社との役割分担を契約段階で明確化します。

マンション規模別の警備形態の選び分け

戸数・共用部の規模・予算で選択肢が変わります。業界で一般的に採用される目安は次のとおりです。

マンション規模推奨形態の目安月額警備費の目安
30戸未満(小規模)機械警備のみ1万〜3万円
30〜100戸機械警備+週数回の巡回3万〜8万円
100〜200戸機械警備+夜間巡回(毎日)8万〜20万円
200〜500戸日勤常駐+夜間機械警備40万〜80万円
500戸以上(大規模)24時間常駐+機械警備80万〜150万円

これらは2026年6月時点の業界一般論で、地域・時間帯・人員配置・資格者要件で大きく変動します。実際の費用は必ず複数社の見積もりで確認してください。

警備会社選びの6つの軸(管理組合視点)

管理組合として警備会社を比較する際の評価軸を整理します。発注検討全般の進め方は警備会社の選び方ガイド|失敗しない発注の進め方も参照してください。

① 1号業務(施設警備)の対応実績

警備業法第4条の 警備業認定 と、依頼する施設警備(1号業務)の許可を持っているかをまず確認します。同種マンションでの運用実績件数は、運用品質の重要な目安です。

  • マンション警備の運用件数(戸数別の実績)
  • 同地域での運用拠点・営業所の有無
  • 警備員指導教育責任者の選任状況(法定要件)

② 機械警備設備の整備状況

機械警備を併用する場合、自社管制か他社連携かで対応品質が変わります。

  • 24時間体制の管制センターの有無
  • 機械警備業務管理者の選任状況
  • 緊急通報から駆けつけまでの目安時間
  • 既存設備との互換性(既設の防犯カメラ・通報装置を活用できるか)

③ 警備員の配置安定性

警備業界全体の構造課題として 人材不足 があり、配置の安定性は発注前に必ず確認すべき項目です。

  • バックアップ要員の配置体制
  • 警備員の定着率・平均勤続年数
  • 同種業務の有資格者(検定保有者)の在籍人数

業界全体の人材構造と動向は警備業界の2025年問題まとめで整理しています。発注時の参考になります。

④ 料金体系の透明性

警備業務の料金は 公的な定価が存在しません。同じ「巡回1回」「常駐1時間」でも会社によって単価設計が大きく異なります。

料金項目確認ポイント
単価ベース時間単価・日単価・月額定額
深夜割増22時〜翌5時の割増率
休日割増法定休日の扱い
諸経費交通費・装備費・管理費の内訳
機械警備設備費初期費用・月額利用料・撤去費用
最低発注時間短時間案件での最低時間計上

公共工事における警備員の労務単価は、国土交通省「公共工事設計労務単価」で公表されており、最新の都道府県別単価は警備の労務単価【最新版】で確認できます。民間取引の参考値として、見積もり金額の妥当性検証に活用できます。費用感の概算は警備費用シミュレーターも活用ください。

⑤ 契約条件の管理組合適合性

管理組合特有の事情を考慮した契約条件かを確認します。

  • 契約期間(管理組合の予算サイクルに合わせて1年・3年など)
  • 解約予告期間(30日前・60日前など)
  • 料金改定条項(最低賃金改定との連動を明文化)
  • 総会承認を要する条項変更の取り扱い
  • 業務報告書の様式と提出頻度(理事会への報告に適合するか)

⑥ 管理会社との連携実績

多くのマンションでは管理会社が窓口を担うため、警備会社と管理会社の連携実績も評価軸になります。

  • 同じ管理会社との取引実績
  • 防災設備会社・修繕業者との情報共有体制
  • 緊急時の連絡フロー(管理組合理事長 → 管理会社 → 警備会社)

マンション警備の費用相場(業界一般論)

繰り返しになりますが、警備業務に公的な定価はありません。業界で一般的に観察される費用レンジを整理します(2026年6月時点)。

巡回警備の費用目安

巡回頻度月額費用の目安
週1回・夜間1回3万〜5万円
週3回・夜間1回5万〜8万円
毎日・夜間1〜2回8万〜20万円

機械警備の費用目安

設備規模月額利用料の目安初期費用の目安
共用部出入口のみ1万〜2万円10万〜30万円
共用部+駐車場2万〜3万円30万〜60万円
全館(カメラ多数)3万〜5万円60万〜150万円

常駐警備の費用目安

配置時間月額費用の目安
日勤8時間(平日のみ)30万〜50万円
日勤8時間+夜勤8時間60万〜100万円
24時間常駐(2〜3名体制)100万〜150万円

常駐警備は人件費が大半を占めるため、最低賃金改定・労務単価改定の影響を直接受けます。長期契約では料金改定条項の有無が長期コストに大きく影響します。

発注の5ステップ(管理組合実務)

管理組合として警備会社を選定する標準フローを整理します。

Step 1:管理組合内での合意形成と要件定義

理事会・防犯部会で発注目的・予算枠を整理し、総会への提案資料を準備します。要件定義書の項目例は次のとおりです。

項目記載例
業務目的共用部の夜間防犯強化
配置場所エントランス・駐車場・駐輪場
業務形態機械警備+夜間巡回
時間帯22時〜翌6時
配置人数巡回1名
期間2026年9月〜2029年8月(3年契約)
緊急対応通報受信から30分以内駆けつけ

Step 2:候補警備会社のリストアップ

要件に該当する号区分・地域・実績を持つ会社を5〜10社程度リストアップします。情報源としては:

  • 警察庁・各都道府県警察の警備業認定一覧
  • 全国警備業協会の会員一覧
  • 既存契約のある管理会社の紹介リスト
  • 同地域の他マンション管理組合からの紹介

Step 3:相見積もり依頼(2〜3社)

同一の要件定義書で 2〜3社からの相見積もり が業界標準です。1社見積もりでは相場感の検証ができず、4社以上は理事会の比較負担が大きくなります。

回答期限は2〜3週間程度に設定し、見積書のフォーマット(月額・年額・初期費用・料金改定条項の明示)を事前指定すると比較しやすくなります。

Step 4:理事会での比較検討と総会提案

各社の見積書を以下の観点で比較し、理事会で1〜2社に絞り込みます。

  • 月額・年額の総額
  • 単価内訳の透明性
  • 料金改定条項の明文化
  • 補償額上限
  • 業務報告書の様式
  • 同種マンションでの実績

絞り込んだ候補を総会で議案として提示し、組合員の承認を得ます。

Step 5:契約締結と業務開始

総会承認後、契約条項を最終確認して締結します。必ず受領しておくべき書類は次のとおりです。

  • 業務仕様書
  • 緊急時連絡体制図
  • 警備員配置計画書
  • 保険証券のコピー
  • 警備業認定番号の証憑

業務開始前に管理組合の理事長・管理会社担当者と警備会社の責任者で 顔合わせミーティング を実施し、運用ルールを共有しておくとトラブル予防に有効です。

大手警備会社と地域中小警備会社の選び分け

業界には大手・中堅・中小(地域密着)の事業者規模差があります。マンション警備の発注における選び分けの目安を整理します。

大手警備会社が向くマンション

業界の大手企業としては ALSOK(綜合警備保障) セコム 全日警 東洋テック セントラル警備保障 などが代表的です(2026年6月時点の公開情報)。

大手警備会社が向くケース:

  • 大規模マンション(200戸以上)で機械警備+常駐警備の併用が必要
  • 24時間管制体制が要件
  • 全国展開する管理会社経由での発注
  • コンプライアンス・帳票整備が要件のマンション(タワーマンション・高級分譲)

大手は機械警備設備・管制システム・教育体制が整備されている一方、地域密着の小回りでは中小に劣る場合があります。

業界内大手の公式情報は ALSOK公式セコム公式 でも確認できます(個人宅向けLPに法人発注の問い合わせ導線も掲載)。

中小・地域密着型警備会社が向くマンション

中小警備会社が向くケース:

  • 中小規模マンション(30〜200戸)で巡回中心の運用
  • 特定エリア限定の案件
  • 柔軟な運用調整(時間調整・人員調整)を重視
  • コスト最適化を最優先する管理組合
  • 警備会社経営層との直接コミュニケーションを重視

中小は経営層との距離が近く、現場運用の柔軟性で優位なケースが多いです。

マンション警備で起きやすいトラブルと予防策

発注後のトラブル事例として、業界でよく聞かれるものを整理します。

トラブル①:警備員の配置が安定しない

人材不足を背景に、当日欠員や経験不足の警備員配置が起きるケースがあります。

予防策:契約時にバックアップ要員の配置体制を明文化、定期的に配置警備員の名簿を提出させる。

トラブル②:料金改定要請への対応

最低賃金の継続的な引き上げを背景に、契約期間中の料金改定要請が増えています。

予防策:料金改定条項を明文化(最低賃金10円以上の改定で再協議など)し、総会決議で改定の許容範囲を予め承認しておく。

トラブル③:機械警備の誤報

センサー設定や設備老朽化で誤報が頻発するケースがあります。

予防策:誤報時の対応フローを契約段階で明確化、誤報率の四半期報告を業務報告書に組み込む。

トラブル④:管理会社と警備会社の責任範囲の曖昧さ

防災設備点検・修繕対応で、管理会社・警備会社・修繕業者の役割分担が曖昧になるケースがあります。

予防策:3者間の役割分担表を作成し、緊急時の一次対応者を明確化する。

マンション警備の業界構造を理解する

発注検討の意思決定の質を高めるため、業界構造の理解も有効です。

業界共通の労務単価動向は警備の労務単価【最新版】で都道府県別・経年で確認できます。料金改定交渉時の客観的な参考データとして活用できます。

発注検討時のチェックリスト

最後に、マンション警備の発注検討で確認すべき項目を整理します。

  • 警備業認定番号(都道府県公安委員会)が公式・見積書に記載されているか
  • 1号業務(施設警備)の許可を持っているか
  • 同規模マンションでの運用実績件数が確認できるか
  • 警備員指導教育責任者の選任状況が明示されているか
  • 機械警備の場合、機械警備業務管理者が選任されているか
  • 管制センターの体制(24時間 or 営業時間のみ)が確認できるか
  • 料金の単価内訳・諸経費が見積書で明確か
  • 料金改定条項が契約書に明文化されているか
  • 賠償保険の補償額上限が明示されているか
  • 解約予告期間が管理組合の予算サイクルと整合するか
  • 業務報告書の様式と提出頻度が理事会報告に適合するか
  • バックアップ要員の配置体制が文書化されているか

12項目すべてで問題がなければ、総会決議を経て契約締結を進めて差し支えありません。

まとめ|マンション警備発注の3原則

マンション管理組合としての警備発注は、次の3原則に集約されます。

  1. 総会決議を前提に同条件で複数社比較:要件定義書を作って2〜3社相見積もり、組合員の承認を得る
  2. 総コストで長期判断:月額単価だけでなく、料金改定条項・保険・契約期間・初期費用を含めた3年・5年トータルコスト比較
  3. 管理組合の運営事情に適合する契約条件:解約予告期間・料金改定条件・業務報告書様式を管理組合のサイクルに合わせる

発注検討は警備会社にとっても重要な営業機会のため、十分な情報開示と現地確認の依頼に応じてくれるのが通常です。理事会・防犯部会で情報を整理し、複数社で比較する姿勢が、結果的に運用品質とコストの両面で最適解につながります。

業務発注全般の進め方は警備会社の選び方ガイドで、店舗・小売の警備発注は店舗・小売の警備発注ガイドで整理しています。本記事は2026年6月時点の公開情報・業界一般論に基づきます。具体的な契約条件・料金・法令運用は必ず各社・各管轄窓口の最新情報でご確認ください。