国土交通省「公共工事設計労務単価」の2025年データで、交通誘導警備員Aの 最高は愛知県20,900円、最低は高知県15,100円。その差は5,800円/日に達し、2016年の3,800円差から +52.6%拡大 しました。警備の地域格差は単年の偏りではなく、日本の地域経済構造を反映した長期トレンドです(2026年6月時点)。
本記事では、この格差拡大の 構造的背景と業界・キャリアへの示唆 を、需要集中・最賃改定差・人手不足の度合いという3つの視点で読み解きます。元データは/data/roumu-tanka/ で出典PDFつきで参照できます。
※ 本記事の数値は国土交通省「公共工事設計労務単価」交通誘導警備員Aの都道府県別値(8時間あたり、wage本体)。民間案件の料金や警備員個人の手取りとは異なります。

警備労務単価の地域別推移(出典:警察庁・国土交通省/編集部整理)
1|数値で見る格差拡大
まず2016年と2025年の格差を整理します。
2016年の最高・最低
| 区分 | 都道府県 | wage(円/日) |
|---|---|---|
| 最高 | 東京都 | 13,600 |
| 最低 | 沖縄県 | 9,800 |
| 差 | — | 3,800円 |
2025年の最高・最低
| 区分 | 都道府県 | wage(円/日) |
|---|---|---|
| 最高 | 愛知県 | 20,900 |
| 最低 | 高知県 | 15,100 |
| 差 | — | 5,800円 |
9年間で格差の絶対額は3,800円→5,800円、+2,000円拡大、率にして+52.6%。最高県は東京から愛知に交代し、最低県は沖縄から高知に交代しました。
2025年の上位/下位5県
| 順位 | 県 | wage |
|---|---|---|
| 1 | 愛知県 | 20,900 |
| 2 | 東京都 | 20,200 |
| 2 | 静岡県 | 20,200 |
| 4 | 神奈川県 | 19,900 |
| 5 | 三重県 | 19,700 |
| … | … | … |
| 43 | 福岡県 | 16,600 |
| 44 | 青森県 | 16,300 |
| 45 | 大分県 / 宮崎県 | 16,400 |
| 46 | 沖縄県 | 15,300 |
| 47 | 高知県 | 15,100 |
出典:国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価」。詳細データは/data/roumu-tanka/ を参照してください。
2|要因①:需要集中の偏り(製造業・物流・大規模再開発)
警備員の労務単価を決める最大要因は、現場の交通誘導需要そのものの厚さです。これは都道府県の経済構造で大きく異なります。
上位県の共通点
- 愛知・岐阜・静岡・三重:自動車関連を中核とする製造業集積、物流ハブ、リニア関連工事
- 東京・神奈川:再開発・大規模インフラ更新・物流需要の集積
- 千葉(19,300円)・埼玉(18,700円):首都圏物流の中核、高速道路改良工事
愛知県の構造分析は「愛知県が警備労務単価上昇率トップ」の理由 で別途整理しています。
下位県の共通点
- 高知・沖縄・愛媛:製造業集積が薄く、公共投資依存度が高い
- 青森・秋田・宮崎・大分:人口減少と建設需要の縮小
- 中規模都市圏の建設投資ペースが鈍化傾向
地方圏では公共工事縮小と需要の伸び悩みで、単価上昇圧力が相対的に弱くなります。
3|要因②:最低賃金の地域差が増幅装置として作動
厚生労働省「地域別最低賃金」の2025年度ランキング上位/下位は、警備員労務単価の上位/下位と高い相関を示します。
| 順位 | 都道府県 | 2025年度 最賃 | 警備員A 2025 |
|---|---|---|---|
| 上位 | 東京都 | 1,163円 | 20,200円 |
| 上位 | 神奈川県 | 1,162円 | 19,900円 |
| 上位 | 大阪府 | 1,114円 | 17,400円 |
| 上位 | 愛知県 | 1,140円 | 20,900円 |
| 下位 | 高知県 | 952円 | 15,100円 |
| 下位 | 沖縄県 | 952円 | 15,300円 |
| 下位 | 宮崎県 | 952円 | 16,400円 |
最低賃金が上昇すれば警備員賃金も上がり、設計労務単価にも反映されます。最賃の格差そのものが220円/時前後あり、これが日当ベースで約1,760円/日相当の差を生む計算です(8時間換算)。
ただし、警備員の単価格差5,800円は最賃格差(1,760円相当)だけでは説明しきれず、需要側の経済構造の差が上乗せされています。
4|要因③:人手不足の度合いの差
厚生労働省「一般職業紹介状況」で、有効求人倍率は地域差が顕著です。
- 愛知県:1.4〜1.5倍(2024〜2025年)
- 東京都:1.3〜1.4倍
- 高知県:1.1〜1.2倍
- 沖縄県:1.1倍前後
求人倍率の高い県では警備員の確保が難しく、単価を引き上げざるを得ません。一方、求人倍率の低い県では既存の単価水準でも人員確保が比較的可能であり、価格上昇圧力が弱くなります。
加えて、製造業・物流業との人材争奪は都市部・産業集積地ほど激しく、賃金以外の労働条件(夜勤手当・福利厚生)でも警備業が劣後しないようにする必要があります。
「広域動員」の限界
愛知・東海エリアでは県境を越えた警備員の広域動員が一般的ですが、地方圏では遠距離通勤コストが採算に合わず、地元の限定的な労働力プールで運用せざるを得ません。これも地方の単価上昇を抑える方向に作用します。
5|「比率は同じ・絶対額は拡大」の意味
冒頭で触れたとおり、最高/最低の比率(約1.38倍)は9年でほぼ変わっていません。一方、絶対額の差は3,800円→5,800円と拡大しました。これは何を意味するか。
全国一律で上昇しているが、上昇額は地域差がある
最低の県も+5,300円程度(沖縄 9,800→15,300)は上がっており、絶対水準は全国で底上げが進んでいます。問題は「上がる速度」が地域で違うことです。
| 県 | 2016 | 2025 | 上昇額 | 上昇率 |
|---|---|---|---|---|
| 愛知県 | 13,100 | 20,900 | +7,800 | +59.5% |
| 東京都 | 13,600 | 20,200 | +6,600 | +48.5% |
| 高知県 | 10,600 | 15,100 | +4,500 | +42.5% |
| 沖縄県 | 9,800 | 15,300 | +5,500 | +56.1% |
愛知(+7,800円)と高知(+4,500円)の上昇額差は3,300円/日。同じ「8年で+5%上昇」と言っても、地方では絶対額の伸びは半分強にとどまります。
6|業界・経営・キャリアへの影響
中小警備会社の地域戦略
格差5,800円は、中小警備会社の地域戦略に直接影響します。
- 高単価エリアでの差別化:愛知・東京・静岡・神奈川では資格者比率・教育体制で勝負
- 低単価エリアでの効率化:固定費圧縮・配置最適化が利益確保のキー
- 広域展開のリスク:県境を越えた展開は単価構造の違いを織り込んだ採算管理が必要
差別化の枠組みは中小警備会社の差別化戦略 で整理しています。
発注者の都道府県別予算
発注検討では、全国平均ではなく 県別単価 を確認することが重要です。
- 愛知(20,900円)と高知(15,100円)で差は5,800円/人/日
- 月20稼働で1人あたり11.6万円/月の差
- 5人配置現場では58万円/月の差
地域を跨ぐ事業者の場合、契約書の単価設定を全国一律にすると一方の地域で大きなロスが生じます。発注実務は警備会社の選び方ガイド を、費用試算は警備費用シミュレーター を活用してください。
現場警備員のキャリア選択
警備員個人のキャリア視点では、地域格差は「勤務地選択の重要性」を意味します。
- 同じ資格・経験でも、勤務地で公共工事系の単価差は1.4倍
- ただし生活費(住居・物価)も地域差があるため可処分所得は別途検討
- 資格を取得して高単価エリアの有資格者ポジションを目指す選択肢
資格取得の戦略は警備員の資格・検定一覧 を、求人検索は警備員の求人サイト6社比較 を参照してください。
7|地域格差は今後も広がるのか
公的データから読み取れる範囲では、格差拡大トレンドは当面続く可能性が高いと評価できます。
続く理由
- 政府の最低賃金改定は地域別の傾斜が継続(A〜Dランク制)
- 大規模インフラ投資の地域偏在(リニア・都市再開発が東海・首都圏に集中)
- 製造業集積の偏在(自動車・半導体は特定地域に集約)
- 人口減少のスピード差(地方の労働力プール縮小)
縮まる可能性
- 最低賃金の地域格差縮小政策(全国一律化議論)
- 地方創生に紐づく公共投資の地方シフト
- リモートワーク普及による首都圏人口分散(ただし警備業務は現場業務のため影響限定)
格差拡大の最新動向は本インデックスで継続更新します。
8|データの限界と読み方
本記事の数値を読むうえで、以下に注意してください。
- 公共工事設計の単価:民間案件の料金とイコールではない
- 2017・2019〜2023年の都道府県別データは未整備:2016と2018、2024と2025の2時点比較が中心(/data/roumu-tanka/ 注意書きを参照)
- 県内格差は見えない:同じ県でも都市部と郡部で水準差がある
- 必要経費を含まない:会社の労務費配分・必要経費は別
- 手取りとは別:警備員の年収完全ガイド で別途整理
詳細データと出典PDFは警備労務単価インデックス に集約しています。
まとめ|格差拡大は経済構造の縮図
- 2016年:最高13,600円(東京)−最低9,800円(沖縄)=3,800円差
- 2025年:最高20,900円(愛知)−最低15,100円(高知)=5,800円差
- 9年で格差は**+52.6%拡大**、最高県も最低県も交代
- 比率(約1.38倍)は維持されたまま、絶対額差が広がる構造
- 要因は需要集中・最低賃金差・人手不足の地域差
- 中小経営・発注予算・警備員のキャリア選択に直接影響
警備労務単価の地域格差は、製造業集積・物流投資・人口動態という日本経済の地殻変動を映し出す鏡です。「全国平均」だけを見ていては、業界の実像を捉えられない時代に入っています。
データ詳細は/data/roumu-tanka/ を、上昇率トップの愛知の構造は「愛知県が警備労務単価上昇率トップ」の理由 を、長期トレンドは8年で+38%上昇の構造要因 を、最新動向は2026年発表で見えた業界の構造変化 を、それぞれ参照してください。