国土交通省「公共工事設計労務単価」の都道府県別データで、交通誘導警備員Aの 愛知県 は2016年13,100円/日から2025年20,900円/日へ +59.5%上昇。これは全47都道府県中で最高の上昇率で、しかも絶対額でも全国トップという稀有な構造になっています(2026年6月時点)。

本記事では「なぜ愛知が突出するのか」を、製造業集積・建設投資・名古屋経済圏・有効求人倍率の4視点で読み解きます。元データは/data/roumu-tanka/ で出典PDFつきで参照できます。

※ 本記事の単価値は国土交通省「公共工事設計労務単価」交通誘導警備員Aの都道府県別値(8時間あたり、wage本体)。民間案件の料金や警備員個人の手取りとは異なります。

警備労務単価8年推移グラフ|愛知が最大上昇+52.6%・東京+46.9%・北海道+47.8%・沖縄+49.1%(2018-2025年・国土交通省データ)

警備労務単価の8年推移(愛知が最大上昇)(出典:警察庁・国土交通省/編集部整理)

1|数値で見る「愛知一強」の構造

まず2016年と2025年の絶対額・上昇率を整理します。

愛知県の9年推移

適用年wage(円/日)全国順位の参考
201613,100上位(東京・神奈川に次ぐ水準)
201814,100上位
202419,700上位
202520,900全国1位

2016年→2025年の上昇率は +59.5%。これは全47都道府県でトップです。

上昇率の都道府県ランキング(2016→2025)

順位都道府県20162025上昇率
1愛知県13,10020,900+59.5%
2岐阜県12,30019,600+59.3%
3静岡県12,70020,200+59.1%
4三重県12,40019,700+58.9%
5沖縄県9,80015,300+56.1%

上位5県のうち4県が 東海地方(愛知・岐阜・静岡・三重)。経済圏としての一体性がそのまま単価の上昇率に反映されています。

2025年の絶対額ランキング

順位都道府県2025年 wage
1愛知県20,900円
2東京都20,200円
2静岡県20,200円
4神奈川県19,900円
5三重県19,700円
6岐阜県19,600円

愛知が東京を上回ったうえに、東海3県(静岡・三重・岐阜)と神奈川がそれに続く構造です。出典:国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価」。詳細は/data/roumu-tanka/ で参照可能です。

2|要因①:自動車産業を核とする製造業集積

愛知県が突出する最大の背景は、 製造業の集積度の異常な高さ にあります。経済産業省「工業統計調査」・「経済構造実態調査」の製造品出荷額等で愛知県は長年全国1位を維持しており、2023年実績でも約47兆円と2位の県を大きく引き離しています。

これが警備労務単価に効く経路は次の3つです。

設備投資 → 建設需要 → 交通誘導需要

自動車関連の工場新設・増設・物流倉庫の整備が継続しており、これに伴う建設工事で交通誘導警備の需要が安定して厚い構造です。電気自動車(EV)化に向けた工場再編・生産ライン更新も追加の需要を生んでいます。

サプライチェーン関連の物流需要

トヨタ系・デンソー系をはじめとするサプライヤーの集積が、24時間体制の物流動線を生み出しています。これが夜間の交通誘導・施設警備の需要を底上げします。物流警備の補足は施設警備(1号)の仕事内容 を参照してください。

高い賃金水準による地域全体の押し上げ

愛知の製造業正社員の賃金は全国上位であり、警備員を含む周辺サービス業の賃金もこれに引っ張られる構造です。地域の最低賃金(2025年度1,140円)も全国上位で、設計労務単価への反映も大きくなります。

3|要因②:リニア・名駅再開発・空港の大規模建設

愛知の建設投資は2010年代後半以降、複数の大型案件が重なる時期に入りました。

リニア中央新幹線関連

リニアの名古屋駅・周辺ターミナル・トンネル工事は2027年品川-名古屋開業を当初目標とする巨大プロジェクトで、計画変更が続きつつも東海地方の建設需要を継続的に押し上げてきました。長大トンネルの坑口部・搬入道路の交通誘導は警備員Aクラスの需要源です。

名古屋駅周辺の超高層ビル群

JRゲートタワー(2017)、JPタワー名古屋(2015)、ささしまライブ24地区の開発と続いた名駅周辺再開発は、現在もミッドランドスクエア周辺・名駅四丁目・五丁目地区の継続再開発が進行中です。都心部の長期工事は警備員配置の中核需要源となります。

中部国際空港・名古屋港の物流投資

中部国際空港の第2滑走路計画、名古屋港の埠頭整備・コンテナ拡張は東海3県の物流網と連動する大型インフラ投資です。

これらの大型案件群は、単年の特殊要因ではなく 2010年代後半から継続している構造的な需要 であり、警備員不足下での単価押し上げ要因となっています。

4|要因③:名古屋経済圏としての地域連動

愛知の単価上昇は、隣接する岐阜(+59.3%)・三重(+58.9%)・静岡(+59.1%)と高い相関を示しています。これは「名古屋を中核とする東海経済圏」が事実上の単一労働市場として機能していることを反映しています。

経済圏としての一体性

  • 名古屋〜岐阜(約30分)、名古屋〜豊橋(約30分)、名古屋〜津(約60分)の通勤・通業圏
  • 製造業の県境を跨ぐサプライチェーン
  • トヨタ・デンソー・スズキを中心とする経済連動

警備員も県境を超えて広域に動員されるケースが多く、岐阜・三重・静岡の単価が愛知に引っ張られて上がる構造になっています。

神奈川・大阪との比較

東京の影響圏である神奈川県は、2016年13,500円→2025年19,900円(+47.4%)。経済圏としては首位を維持しつつも、伸び率では東海勢に劣後しています。

大阪府は2016年11,400円→2025年17,400円(+52.6%)。関西経済圏として一定の伸びは見せるものの、絶対額・伸び率ともに東海勢には及びません。

5|要因④:有効求人倍率の高さと人手不足

厚生労働省「一般職業紹介状況」で、愛知県の有効求人倍率は長年にわたり全国上位で推移しています。2024年・2025年の年間平均でも1.4〜1.5倍前後と、製造業の繁忙と相まって全国平均(1.2倍台)を明確に上回る水準です。

警備業に限った求人倍率は別途集計が必要ですが、業界全体の人手不足傾向に加え、愛知では製造業・物流業との人材争奪が起きています。結果として、警備員確保のために単価を引き上げざるを得ない圧力が他県より強く働きます。

人手不足下の警備員キャリアの全体像は警備員 未経験から始める完全ガイド で整理しています。

6|中小警備会社・発注者・現場警備員への示唆

中小警備会社の戦略

東海地方では設計労務単価の上昇を背景に、価格転嫁の論理が立てやすくなっています。一方で人材確保競争が激化するため、定着率・教育体制・福利厚生での差別化が中長期の鍵となります。差別化の枠組みは中小警備会社の差別化戦略 で整理しています。

発注者(建設会社・施主)の実務

東海地方で発注を検討する場合、見積もり段階で全国平均ではなく 県別単価 を確認することが重要です。全国平均(2025年A=17,931円)と愛知(20,900円)の差は約3,000円/人/日で、月20稼働では1人あたり6万円超の差となります。

発注実務の詳細は警備会社の選び方ガイド を、費用試算は警備費用シミュレーター を活用してください。

現場警備員のキャリア視点

愛知・東海エリアは絶対額・伸び率ともにトップであり、警備員のキャリア選択地として有利な側面があります。ただし生活費(特に名古屋市内の住居費)も比較的高いため、額面と手取り・可処分所得は別途検討が必要です。

東海地方の警備求人の探し方は警備員の求人サイト6社比較 を参照してください。

7|データの限界と読み方

本記事の数値を扱ううえで、以下に注意が必要です。

  1. 公共工事設計の単価:民間案件の料金とイコールではない
  2. 県別の都市と郊外の差:県内格差は集約されているため見えない
  3. 2017・2019・2020〜2023年の都道府県別データは未取得:2016と2018、2024と2025の2時点比較が中心(/data/roumu-tanka/ の注意書きを参照)
  4. 手取り賃金とは別:会社の労務費配分次第
  5. 2026年(最新)の都道府県別データ:本記事公開時点では国交省PDFの個別県数値の整理途上

詳細データと出典PDFは警備労務単価インデックス に集約しています。

まとめ|愛知一強が示す警備業界の地域構造

  • 愛知県:2016年13,100円 → 2025年 20,900円(+59.5%、全国1位)
  • 東海4県(愛知・岐阜・静岡・三重)が上昇率トップ4を独占
  • 主因は製造業集積・大型建設投資・名古屋経済圏・人手不足の複合
  • 2016年に東京がトップだった構造から、愛知が首位を奪取
  • 絶対額でも東京・静岡・神奈川を抜いて全国トップ

警備の労務単価データは、日本の地域経済構造そのものを映し出しています。「東京中心」から「東海台頭」への変化は、警備業界の発注・経営・キャリア戦略を考えるうえで重要なシグナルです。

データ詳細は/data/roumu-tanka/ を、地域格差そのものの分析は警備の都道府県別単価格差はなぜ広がるのか を、長期トレンドは8年で+38%上昇の構造要因 を、最新動向は2026年発表で見えた業界の構造変化 を、それぞれ参照してください。