警備員の労務単価は、2019年から2026年までの8年間で全国平均+38.2%上昇しました。これは国土交通省「公共工事設計労務単価」(交通誘導警備員A・全国平均)に基づく実数値で、警備業界の賃金水準が中長期で構造的に押し上げられていることを示しています(2026年6月時点)。

本記事では、この8年連続上昇の 数値推移・背景要因・今後の見通し を、データの限界もふくめて業界視点で整理します。記事末尾の /data/roumu-tanka/ に元データの一覧と出典PDFを置いていますので、本文の数値を確認しながら読み進めてください。

※ 本記事の単価はすべて国土交通省「公共工事設計労務単価」交通誘導警備員Aの全国平均値(8時間あたり)。公共工事の設計に用いる賃金単価であり、実際の民間警備料金や現場賃金そのものを示すものではありません。

警備労務単価8年推移グラフ|全国平均+38.2%・愛知+52.6%・東京+46.9%・北海道+47.8%・沖縄+49.1%(2018-2025年・国土交通省データ)

警備労務単価の8年推移(交通誘導A・4都道府県)(出典:警察庁・国土交通省/編集部整理)

1|8年連続上昇の数値推移(2019→2026)

2019年(令和元年)3月適用分から、最新の2026年(令和8年)3月適用分までの全国平均推移は次のとおりです。

適用年交通誘導A(円/日)前年比累積上昇率(2019比)
201913,682+6.8%
202014,053+2.4%+2.7%
202114,364+2.1%+5.0%
202214,873+3.7%+8.7%
202315,967+7.1%+16.7%
202416,961+6.4%+24.0%
202517,931+5.7%+31.1%
202618,911+5.8%+38.2%

出典:国土交通省「公共工事設計労務単価」各年プレスリリース(2024年版PDF / 2025年版PDF ほか)。データの元一覧は警備労務単価インデックス を参照してください。

8年間の単純累積では+38.2%、年平均成長率(CAGR)に換算するとおおむね+4.7%/年に相当します。年率4%台後半というのは、同期間の全産業の名目賃金上昇率(後述)と比較しても明確に高い水準です。

「平成25年度から14年連続の引き上げ」の公式メッセージ

国土交通省は2026年版の労務単価公表に際し、警備員を含む全職種の全国平均で「平成25年度から14年連続の引き上げ」と説明しています。警備員(交通誘導A)に絞っても直近8年は連続でプラス改定が続いており、データインデックスの/data/roumu-tanka/ で年次推移を確認できます。

直近3年(2023→2026)のモメンタム

直近3年の上昇率は +18.4%(15,967円→18,911円)。3年だけ切り出すと年率+5.8%相当で、上昇ペースは過去より明確に加速しています。

2|なぜ上がり続けているのか|3つの構造要因

8年連続の上昇は単年の特殊要因ではなく、業界をまたぐ構造的な押し上げ圧力の結果として説明されます。主な要因は3つです。

要因①:建設業・警備業の人手不足

警察庁「警備業の状況」の業界統計では、近年も警備員の絶対数の伸びは限定的で、警備需要に対して人員確保が追いつかない状態が続いています。建設業全体でも国土交通省の「建設業を巡る現状」資料で、技能労働者の高齢化と若年層の流入不足が継続課題として挙げられており、警備員はその周辺市場として同じ需給圧力を受けています。

具体的には:

  • 警備員の有効求人倍率は職業計平均より高い水準で推移
  • 大規模インフラ更新(高速道路・橋梁・トンネル)の継続需要
  • 都市再開発・物流施設の建設ラッシュ
  • イベント・観光関連の雑踏警備需要回復

これらが交通誘導警備員Aの単価押し上げに直接効いています。警備員数・業者数の経年推移は警備業界 市場規模インデックスで警察庁CSVの実値ベースで確認できます。警備員の労働実態の補足は警備員はきつい?体力的負担と離職率 を参照してください。

要因②:最低賃金の継続的な引き上げ

厚生労働省「地域別最低賃金」は全国加重平均で2019年901円から2025年度1,054円超まで、6年間で約+17%上昇しています。警備員は都道府県別最賃の影響を強く受ける職種であり、最賃改定はそのまま現場賃金、ひいては公共工事設計労務単価の改定にも反映されます。

最低賃金の毎年10月改定 → 翌年3月の設計労務単価改定、というサイクルが定着しており、過去2年は最賃の二桁円上げが警備員単価の+5〜7%上昇の主因のひとつになっています。

要因③:法定福利費・社会保険料負担の上昇

警備会社の人件費総額は、賃金そのものに加えて社会保険料・労働保険料・福利厚生費が乗ります。国土交通省は近年、設計労務単価の改定にあわせて法定福利費の確実な支払いを発注者・元請けに繰り返し要請しており、賃金単価本体だけでなく社保コスト込みでの見直しが進められてきました。

このため、単純な賃金カーブよりも警備員の総人件費は上振れて推移しており、それが設計労務単価の継続改定として反映されています。

3|他業種・全産業との比較

国税庁「民間給与実態統計調査」では、民間給与所得者の平均給与は2019年436万円から直近で460万円台前半まで、おおむね年率1〜2%程度の上昇にとどまっています。連合「春闘」集計でも、2024年・2025年の賃上げ率は5%台と高水準ですが、これは大企業中心の集計です。

公共工事設計労務単価の警備員Aは、全国平均で2019→2026年に+38.2%。年率に直すと+4.7%で、全産業の平均賃上げペースを明確に上回っています。

指標期間上昇率
警備員A(設計労務単価・全国平均)2019→2026+38.2%
警備員B(設計労務単価・全国平均)2019→2026+39.6%
全産業 民間給与(国税庁)2019→2024約+5%前後
最低賃金 全国加重平均(厚労省)2019→2025約+17%

警備員Bも2019年11,998円→2026年16,749円で +39.6% と、Aと並ぶ上昇率を示しています。「警備員の単価は全産業平均より明確に速く上がっている」と読み取って差し支えありません。ただしこれはあくまで 公共工事の設計上の単価 であり、実際の手取り賃金の上昇率は、各社の労務費配分・雇用形態・地域要因で大きく分散します。詳細は警備員の年収完全ガイド を参照してください。

4|上昇が続くと現場はどう変わるか

8年連続上昇のトレンドが続くと、警備業界の経営・発注・現場には次のような変化が想定されます。

経営側:労務費比率の上昇と価格転嫁

警備会社の売上原価に占める人件費比率は元々高く、おおむね70〜80%とされます。労務単価の継続上昇は、発注先への単価改定(価格転嫁)が伴わなければ、利益率を直接圧迫します。中小警備会社の経営差別化の論点は中小警備会社の差別化戦略 で整理しています。

発注側:契約書の料金改定条項の整備

最賃改定・設計労務単価改定にあわせて料金を見直す「スライド条項」を契約に明記する動きが、発注側・受注側の双方で広がっています。発注検討の実務は警備会社の選び方ガイド を参照してください。

現場側:資格手当の重みが増す

交通誘導A単価は「政令で定める道路の交通誘導」で必要な有資格者の単価であり、2号警備の検定資格保有者へのインセンティブが相対的に強まります。資格取得の進め方は警備員の資格・検定一覧 で整理しています。

実勢の現場見積もり感は交通誘導警備の相場 もあわせてどうぞ。費用感をシミュレーションしたい発注者は警備費用シミュレーター もご利用ください。

5|今後の見通し(仮説)

公的データから読み取れる範囲では、当面の単価上昇トレンドは続く可能性が高いと評価できます。根拠は次のとおりです。

  • 最低賃金は政府目標「2020年代半ばに全国加重平均1,500円」が示されており、年率+5%前後の改定が当面続く想定
  • 建設業の技能労働者高齢化は加速しており、警備員の需給逼迫は構造的に解消されにくい
  • 法定福利費・社会保険料率は段階的引き上げの方向

ただし、急激な公共投資縮小・景気後退・労務単価改定政策の方針転換などがあれば、上昇ペースは鈍化し得ます。本記事の数値はあくまで「過去のトレンド」であり、将来予測ではありません。

6|データの限界と読み方の注意

本記事の単価値を読むうえで、以下の点に注意してください。

  1. 公共工事設計の単価である:民間警備案件の見積もり水準とイコールではありません
  2. 8時間あたりの値:時間外・深夜・休日には別途割増が乗ります
  3. wage(賃金)のみを掲載:警備会社の必要経費・利益分は含みません(/data/roumu-tanka/ では「必要経費込み」も別途参照)
  4. 全国平均:都道府県別では大きな差があります(愛知トップの理由地域格差はなぜ広がるか で深掘り)
  5. 2026年の最新動向2026年発表で見えた業界の構造変化 で別途解説しています

詳しい元データと出典PDFは警備労務単価インデックス(/data/roumu-tanka/) に集約しています。

まとめ|8年で+38%が意味するもの

  • 全国平均(交通誘導A):2019年13,682円 → 2026年18,911円、+38.2%
  • 8年連続のプラス改定、年平均+4.7%/年
  • 直近3年は+18.4%とペース加速
  • 背景は人手不足・最低賃金改定・社会保険料負担の3要因
  • 全産業平均賃上げよりも明確に速いペース

警備業界はいま、賃金構造の地殻変動の只中にあります。経営者は契約スライド条項と価格転嫁の設計を、現場の警備員は資格取得による単価上昇への参加を、発注者は中長期的な料金改定見通しを、それぞれ意識する局面です。

データ詳細は/data/roumu-tanka/ を、最新動向は2026年発表で見えた業界の構造変化 を、地域差は愛知トップの理由地域格差はなぜ広がるか を、それぞれ参照してください。