警備業界の受発注は、多くの場合「元請 → 1次協力会社 → 2次以下の協力会社」という 多層下請構造 で成り立っています。この構造は、上場大手3社を頂点とする業界ピラミッド(警備業界 全体マップ 2026)を、案件レベルで見たときの実態です。

本記事では、警察庁データ・公表資料・業界慣行を公開情報の範囲で整理し、業界の階層構造・下請単価の実態・多層化を生む要因を読み解きます。

1. 警備業界の3階層構造

警備業の受発注構造は、一般的に以下の3層で構成されます。

元請(1次請け)

発注者(施主・自治体・イベント主催者など)と 直接契約 する事業者。営業活動・現場管理・警備員配置・安全管理責任を負い、案件全体の統括を担います。上場3社(セコム・ALSOK・CSP)や準大手・地方の一部有力事業者が中心です。

1次協力会社(2次請け)

元請から 一部業務を受託 する事業者。特定エリア・特定時間帯・特定業務(例:夜間交通誘導のみ)を担当することが多く、元請の管制・指示のもとで警備員を配置します。中堅・中小事業者に多い形態です。

2次以下の協力会社(下請)

1次協力会社から さらに再委託 される事業者。零細業者や個人事業主に多く、警備員 1〜数名 の小規模チームで案件対応することが一般的です。

警察庁データでは、警備業者の 84.5%が「1営業所のみ」・37.5%が「9人以下」 という零細事業者中心の構造があります(警備業界 全体マップ 2026)。この構造の背景に、多層下請の存在があります。

2. 発注ルート別の階層構造

階層構造は、発注元が 公共民間 かで違いが出ます。

公共発注(自治体・官公庁)

公共工事や官公庁施設の警備は、原則として公開入札で発注されます。入札に参加できるのは、自治体の入札参加資格を持つ事業者に限られるため、元請は営業力・実績・資格を備えた事業者に集中 します。

その一方で、実際に現場に立つ警備員は元請の自社雇用だけでなく、協力会社の警備員が配置されるケースが多く見られます。公共工事の設計労務単価(警備労務単価8年で+38.2%上昇)は公表される一方、末端の警備員に支払われる実賃金との間には差が生じる構造です。

公共入札の仕組みは、業界の階層構造を規定する最大の要因です。詳細は警備業の公共入札の仕組みで整理しています。

民間発注

民間発注は、顧客との継続契約が多く、上場3社の常駐警備・機械警備が大きなシェアを占めます。一方、イベント警備・建設現場警備は季節・案件変動が大きく、元請1社では対応困難 なため、協力会社との連携が必須になります。

民間発注ではとくに、イベント・建設現場・スポット警備において多層下請が顕在化しやすい構造があります。

3. 下請単価の実態

元請取り分と下請取り分

警備業の元請は、下請への発注時に一定の取り分(管理費・元請手数料)を控除する慣行があります。具体的な料率は公表統計が乏しく、業界内では 概ね10〜30%のレンジ で語られることが多いですが、案件規模・発注者・地域・元請下請の関係性・業務内容の複雑度により大きく変動します(※本項は業界内で流通する慣行値であり、個別案件の実態を保証するものではありません)。控除の対価は、以下の役割分担に対応します。

  • 営業窓口:発注者との契約・見積・請求
  • 管制業務:警備員配置・当日連絡・シフト管理
  • 安全管理:事故時の一次対応・警察・救急連絡
  • 元請補償:事故・訴訟時の元請としての責任
  • 教育・検定:警備員指導教育責任者の配置

つまり、下請単価は「元請単価 − 元請取り分」となり、末端の警備員に支払われる時給や日給に直結します。

単価が下がる3つの理由

下請単価が低くなる背景には、警備業特有の3つの構造要因があります。

  • ① 業者数の増加による価格競争:業者数+6.9%に対し警備員数はほぼ横ばい(業者数 vs 警備員クロス分析)。案件を巡る競争が下請単価を圧迫します。
  • ② 業者の零細化:37.5%の事業者が9人以下という規模で、価格交渉力が限定的。低単価でも案件を取らざるを得ない構造。
  • ③ 元請の管制コスト増:24時間対応の管制体制・報告書電子化・警備員検定取得など、元請の管理コストは近年増加傾向で、その分が下請取り分の圧縮に反映される場合があります。

これらの構造は、警備業界の倒産件数増加(警備業の倒産が過去最多|2025年上半期16件)の遠因の一つとしても分析可能です。

4. 多層化を生む3つの要因

なぜ警備業では2次・3次と多層下請が形成されるのでしょうか。

要因① 地理的カバレッジ

警備は「現場に人を配置する」性質上、全国展開の元請が地方の現場を自社警備員だけでカバーするのは非効率です。地方協力会社への発注が合理的で、これが多層構造の土台になります。

要因② 業種・業務の専門分化

警備業には1号(施設)・2号(交通誘導)・3号(貴重品運搬)・4号(身辺警備)の業務区分があり、さらに特殊分野(保安警備・原子力・空港・港湾)も存在します(原子力施設警備の市場)。特定業種・特殊分野に強い協力会社への再委託は、専門性の観点から合理的です。

要因③ 変動需要への対応

イベント警備・建設現場警備は繁忙期と閑散期の需要変動が大きく、元請が自社警備員のみで対応すると人件費の固定化リスクが生じます。変動を協力会社に分散させる構造が、多層下請を促進しています。

5. 業界の課題と論点

多層下請は業界の合理性の産物である一方、末端の警備員の処遇や事故発生時の責任所在に課題を生む構造でもあります。

主要な論点は以下の通りです。

  • 末端警備員の処遇:元請単価と末端賃金のギャップは、警備員の離職・高齢化(警備員47.0%が60歳以上)を助長する要因の一つ。
  • 事故時の責任所在:事故発生時、元請・1次協力会社・2次協力会社の間で責任分担が曖昧なケースがあり、業界標準の整備が課題。
  • DX投資の分散:管制SaaS・AI画像解析への投資は元請中心で、下請には浸透しにくい(警備業SaaS 5社比較)。業界全体のDX加速には多層構造の再設計が必要という論点があります。

一方で、多層下請そのものが悪ではなく、「元請の管制品質」と「協力会社の実行品質」を分業する合理的モデル としても機能しています。業界の持続可能性は、この分業を 透明化・標準化 できるかにかかっているでしょう。

6. 発注者・警備員へのインプリケーション

発注者へ

警備会社を選ぶ際、「その会社が元請として自社対応するのか、協力会社に流すのか」は品質と価格の重要な判断軸です。詳細は警備会社の選び方で整理しています。

警備員へ

働く警備会社が「元請中心」か「協力会社中心」かで、給与水準・雇用安定性・教育機会に差が出ます。転職時のチェックポイントは警備員の転職ガイドを参照してください。

7. 出典・参考データ

8. 警備ラボの関連レポート


編集部の見立て:警備業界の多層下請構造は、警備業法制定(1972年)以降の業界慣行として定着してきた合理的モデルであり、単純に「悪」と切り捨てられません。一方で、末端警備員の処遇改善・事故時の責任所在の明確化・業界全体のDX浸透という観点では、階層の透明化と標準化が急務です。業界の意思決定インフラを目指す警備ラボとしては、今後も元請・下請の構造データを継続的に整理し、業界の議論を促す提言を発信していきます。