「最低賃金の目安が全国加重平均+55円で答申された」 ——2026年7月28日、厚生労働省 中央最低賃金審議会 が令和8年度地域別最低賃金の改定目安を公表しました。全国加重平均は1,121円→1,176円(+55円、+4.9%) と、業界の労務単価・警備員賃金・警備会社経営に直結する内容です。
警察庁令和6年における警備業の概況 が示す警備員数-0.1%横ばい・高齢化47.0%の構造の中で、最低賃金の改定は 警備業の労務コストと人材確保の両面に影響を及ぼす重要イベント です(警備業の人手不足の正体 参照)。
本記事では、警備会社の経営者・労務担当者・発注者・警備員志望者に向けて、令和8年度最低賃金改定の目安内容/警備業界への5つの影響/中小警備会社の実務対応/発注者側の契約論点 を、厚労省・警察庁の一次情報をベースに整理します(2026年9月2日時点)。
※ 本記事は中央最低賃金審議会の「目安」ベースの整理であり、各都道府県の実額は地方最低賃金審議会の答申と労働局長の決定を経て確定します。自社の所在地・営業地域の最新情報は必ず厚労省・所在地労働局の公表情報でご確認ください。
令和8年度 最低賃金改定の目安|厚労省一次情報
中央最低賃金審議会の答申内容
厚生労働省の令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について によれば、令和8年7月28日の第75回中央最低賃金審議会で以下の目安が答申されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 答申日 | 令和8年(2026年)7月28日 |
| 全国加重平均目安 | 1,176円(前年実額1,121円 +55円) |
| 引上げ率 | 4.9%(前年6.3%・1,055→1,121円) |
| A ランク(6都府県) | +54円 |
| B ランク(28道府県) | +56円 |
| C ランク(13県) | +56円 |
Aランクは埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪の6都府県。B・Cランクを合わせた地方部の引上げ額(+56円)がAランクを1円上回る構図で、地域間格差の縮小方向 が反映されています。※前年比較は令和7年度実額(改定後全国加重平均1,121円)ベース。ランク区分・都道府県内訳の詳細は厚労省 令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について 別紙をご参照ください。
決定プロセスと適用時期
中央最低賃金審議会の答申は「目安」であり、実際の各都道府県の最低賃金額は以下のプロセスで確定します。
- 中央審が目安を答申(2026年7月28日)
- 各都道府県の地方最低賃金審議会が実額を答申(8月以降順次)
- 各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定(順次)
- 適用開始(例年10月1日前後、都道府県で異なる)
各都道府県の実額・発効日は、厚労省・所在地労働局の公表情報で必ず最新確認してください。次項で2026年9月3日時点で判明している47都道府県の答申額を整理します。
令和8年度 47都道府県別 実額と発効日
2026年9月3日、厚生労働省は全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました を公表しました。答申段階の全国加重平均は 1,177円(前年1,121円+56円)、最高額 1,280円(東京)・最低額 1,085円(宮崎) で、47都道府県すべてで 54円〜65円 の引上げが答申されています。発効日は各都道府県労働局長の決定を経て 令和8年10月1日〜12月2日 の間で順次となる予定です。
以下、業界内でよく参照される単位(Aランク=大都市圏/Bランク=地方主要/Cランク=地方部)で整理します。※本表は各種公表情報を編集部が整理したもので、最終確定額・発効日は必ず所在地労働局の公表情報 でご確認ください。
Aランク|大都市圏(6都府県)
| 都府県 | 令和8年度(円) | 前年度(円) | 引上げ | 発効日 |
|---|---|---|---|---|
| 東京 | 1,280 | 1,226 | +54 | 10/1 |
| 神奈川 | 1,279 | 1,225 | +54 | 10/1 |
| 大阪 | 1,231 | 1,177 | +54 | 10/1 |
| 埼玉 | 1,196 | 1,141 | +55 | 10/1 |
| 千葉 | 1,195 | 1,140 | +55 | 10/1 |
| 愛知 | 1,195 | 1,140 | +55 | 10/1 |
Aランクは全て 10月1日発効、引上げは目安どおりの+54〜55円。首都圏4都県と大阪・愛知の警備単価は、この最低賃金水準を基準に労務原価が計算されます。
Bランク|地方主要(28道府県)
| 道府県 | 令和8年度(円) | 引上げ | 発効日 |
|---|---|---|---|
| 静岡 | 1,154 | +57 | 10/15 |
| 三重 | 1,143 | +56 | 10/1 |
| 広島 | 1,141 | +56 | 10/11 |
| 茨城 | 1,136 | +62 | 10/18 |
| 滋賀 | 1,136 | +56 | 10/3 |
| 北海道 | 1,131 | +56 | 10/1 |
| 栃木 | 1,125 | +57 | 10/1 |
| 岐阜 | 1,121 | +56 | 10/1 |
| 群馬 | 1,120 | +57 | 10/3 |
| 富山 | 1,119 | +57 | 10/1 |
| 長野 | 1,117 | +56 | 10/2 |
| 福岡 | 1,114 | +57 | 10/4 |
| 石川 | 1,113 | +59 | 10/3 |
| 山梨 | 1,113 | +61 | 11/1 |
| 福井 | 1,112 | +59 | 10/4 |
| 新潟 | 1,108 | +58 | 10/1 |
| 奈良 | 1,107 | +56 | 10/4 |
| 岡山 | 1,104 | +57 | 10/2 |
| 徳島 | 1,103 | +57 | 11/1 |
| 兵庫 | 1,172 | +56 | 10/1 |
| 京都 | 1,180 | +58 | 11/16 |
| 和歌山 | 1,101 | +56 | 10/3 |
| 山口 | 1,101 | +58 | 10/8 |
| 宮城 | 1,098 | +60 | 10/1 |
| 大分 | 1,096 | +61 | 11/1 |
| 福島 | 1,094 | +61 | 10/16 |
(一部Bランクは省略)Bランクは10月1日発効の県と、11月・11月中旬発効の県が混在します。発効日が遅い京都(11/16)・徳島(11/1)等は、警備会社側の10月分〜11月分の賃金計算・シフト設計に注意 が必要です。
Cランク|地方部(13県)
| 県 | 令和8年度(円) | 引上げ | 発効日 |
|---|---|---|---|
| 佐賀 | 1,095 | +65 | 11/15 |
| 鹿児島 | 1,090 | +64 | 10/25 |
| 高知 | 1,086 | +63 | 10/29 |
| 沖縄 | 1,086 | +63 | 12/2 |
| 宮崎 | 1,085 | +62 | 10/24 |
| 山形 | 1,092 | +60 | 10/30 |
| 島根 | 1,092 | +59 | 10/10 |
| 香川 | 1,092 | +56 | 10/1 |
| 愛媛 | 1,093 | +60 | 11/1 |
| 熊本 | 1,092 | +58 | 12/1 |
| 長崎 | 1,087 | +56 | 11/2 |
| 青森 | 1,090 | +61 | 10/29 |
| 秋田 | 1,090 | +59 | 10/14 |
Cランクは 地域間格差の縮小方向 が顕著で、佐賀 +65円・鹿児島 +64円・高知/沖縄 +63円と、Aランク(+54〜55円)を大きく上回る引上げ額。沖縄(12/2発効)・熊本(12/1発効) は年内で最も遅い発効となり、警備会社は12月分の給与計算まで新旧混在の可能性に注意が必要です。
発効日別のまとめ|警備会社の対応スケジュール
| 発効時期 | 主な地域 | 実務ポイント |
|---|---|---|
| 10月上旬 | 東京・神奈川・大阪・埼玉・千葉・愛知・北海道・宮城・岐阜・兵庫・三重・新潟 等 | 9月中に規程改定・警備員周知を完了 |
| 10月中旬〜下旬 | 秋田・広島・静岡・茨城・福島・宮崎・鹿児島・高知 等 | 10月分給与から差分反映 |
| 11月 | 福島・山梨・愛媛・徳島・大分・京都・佐賀・長崎 等 | 10月分は旧額、11月分から新額 |
| 12月 | 熊本(12/1)・沖縄(12/2) | 年内で最も遅い発効 |
警備会社側の実務:営業地域が複数県にまたがる場合、県ごとに発効日が異なる ため、警備員別・現場別・月別の賃金計算ロジックの見直しが必要です。管制システム・給与計算SaaSでの県別発効日対応も含めて、9月中の準備完了が望ましい時期です。DX化の全体像は警備業のDX完全ガイド 、労務管理の実務は警備業の労務管理 を参照。
警備業界への 4つの影響
最低賃金改定が警備業界に及ぼす影響を、一般論として4つに整理します。
影響1|警備員賃金水準の底上げ
警備業は労働集約型で、警備員の賃金水準が最低賃金に近接する現場も少なくありません。最低賃金の引き上げは、警備員の時給・月給水準を直接押し上げる 方向に作用します。特に交通誘導警備(2号)・施設警備(1号)の一般警備員層で、影響が顕在化しやすい領域です。警備員の年収水準は警備員の年収 を参照。
影響2|労務単価・警備料金への波及
最低賃金改定は、警備会社の労務原価を押し上げ、警備料金の改定圧力 を生みます。国土交通省の公共工事設計労務単価(毎年3月改定)とは制度が異なりますが、実務上は連動する側面があります。労務単価の業界動向は警備員の労務単価データ 、8年推移は警備員の労務単価8年推移 を参照。
影響3|中小警備会社の経営コスト増
人件費比率の高い警備業では、最低賃金の引上げが直接的な経営コスト増 につながります。中小警備会社は、①発注者との単価交渉力の弱さ、②省力化投資の余力の少なさ、③大手との差別化の難しさから、負担感が大きくなりがちです。業界の構造は警備業の人手不足の正体 参照。
影響4|発注者との単価交渉の必要性
最低賃金改定に対応するには、発注者との契約単価の改定交渉 が必要になります。既存契約の単価改定・新規契約時の単価設計・年次スライド条項の導入が、業界共通の実務課題です。単価改定を拒否し続ける発注者関係は、警備会社の撤退・警備品質低下・警備員離職リスクを高めます。
中小警備会社の実務対応|4つのステップ
最低賃金改定への警備会社側の実務対応を、4ステップで整理します。
Step 1|自社所在地・営業地域の実額確認
まず、自社所在地と営業地域の各都道府県で決定された実額と発効日 を確認します。中央審の目安と、実際の各県決定額は異なるケースがあります。地方最低賃金審議会の答申・労働局長決定を、厚労省と所在地労働局の公表情報で必ず最新確認してください。
Step 2|就業規則・賃金規程の見直し
発効日までに、就業規則・賃金規程の改定 が必要です。時給・月給の基準改定、深夜割増の再計算、検定手当等の資格連動加算の見直しなど、賃金体系全体の点検を行います。労務管理の全体像は警備業の労務管理 を参照。
Step 3|警備員への周知・面談
警備員全員への改定内容の周知と個別面談 が実務対応の要諦。特に高齢警備員は最低賃金との近接度が高く、改定内容の理解と、必要に応じた勤務条件の再確認が必要です。健康管理と就業配慮は警備員の健康管理・職業病 参照。
Step 4|発注者との単価改定交渉
発注者との契約単価の改定交渉 を、発効日前後に集中的に行います。単価改定の根拠として、①最低賃金の実額改定資料、②警備員賃金水準の変化、③自社原価の変動、を客観データで示すのが実務的です。
発注者側の契約論点
発注者(クライアント)側が最低賃金改定に対応するための契約論点を3点整理します。
論点1|警備料金改定への合理的対応
警備会社側からの単価改定要請には、合理的な範囲で応じる のが実務的な対応です。単価改定を過度に抑制すると、警備会社の撤退・警備品質の低下・警備員の離職を招き、結果的に発注者側のコストとリスクが増加します。
論点2|長期契約の年次スライド条項
長期契約では、最低賃金改定に連動した年次スライド条項 の導入が業界内で議論されつつあります。契約単価の予見可能性を高めることで、警備会社・発注者双方の運用が安定します。
論点3|警備会社側の経営継続性への配慮
警備会社の経営継続性は、発注者側の警備品質確保に直結 します。単なるコスト最適化ではなく、パートナーシップの観点で警備契約を設計するのが業界の中長期方向です。
編集部の見立て|最低賃金改定が業界に示す 3つの示唆
上記の目安・影響・実務対応を踏まえて、令和8年度最低賃金改定が警備業界に持つ中長期的な示唆を、編集部として3点整理します。
① 「最低賃金」と「業界高齢化」の構造矛盾が顕在化
警備員の60歳以上比率47.0%という業界構造は、最低賃金改定の影響を複雑化させます。高齢警備員の賃金水準は最低賃金と近接するケースが多く、改定の影響を直接受ける一方、若年層獲得のためには賃金の底上げが不可欠 という構造矛盾を業界は抱えています。警備業の高齢化46%レポート 参照。
② 「単価改定交渉力」が中小警備会社の経営品質を左右
大手警備会社は発注者との単価交渉力が比較的強い一方、中小警備会社は 単価改定交渉の巧拙が経営品質を左右 する時代に入っています。契約書設計・改定根拠データの整備・交渉プロセスの標準化が、中小警備会社の経営課題として顕在化します。
③ DX投資と補助金活用による “省力化” が経営の必須条件に
最低賃金の継続的な引き上げは、DX投資による省力化を経営の必須条件 にします。警備SaaS・AIカメラ・機械警備の活用で人件費比率を下げる動きが、業界の中長期戦略として位置づけられます。DX全体像は警備業のDX完全ガイド 、AIカメラは警備業向けAIカメラ完全ガイド 、業界のM&A動向は警備業界M&A・業界再編の最前線 を参照。
まとめ|令和8年度最低賃金改定の 3つのポイント
令和8年度最低賃金改定は、警備業界の労務コスト・経営品質・人材確保に 直接影響する重要イベント です。要点を3つに整理します。
- 中央審の目安は全国加重平均+55円・1,176円(+4.9%)。各県実額は地方審・労働局長決定を必ず確認する
- 警備会社の実務対応は4ステップ(実額確認・規程改定・警備員周知・発注者交渉)で計画的に進める
- 発注者側は警備料金改定への合理的対応・年次スライド条項の検討・経営継続性への配慮が業界インフラ維持の要諦
自社チェックリスト(警備会社・発注者共通)
- 自社所在地・営業地域の各都道府県の実額と発効日を確認したか
- 就業規則・賃金規程の改定計画は発効日までに完了する見込みか
- 警備員全員への改定内容の周知と個別面談の計画は立てたか
- 発注者との単価改定交渉のロードマップは設計されているか
- 契約書に年次スライド条項の導入余地はあるか
- 高齢警備員・パートタイム警備員への影響は個別に把握したか
- DX投資・補助金活用による中長期の省力化計画は検討されているか
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労務単価の8年推移は警備員の労務単価8年推移 、2026年の分布は警備員の労務単価 2026年分布 をあわせて確認してください。
本記事は2026年9月2日時点の厚労省・警察庁の一次情報と業界一般論に基づきます。具体的な適用実額・発効日・実務対応は、必ず厚労省・所在地労働局の公表情報と社労士等の専門家への相談を経て行ってください。