警備業界の経営指標の中でも、離職率は業界の持続可能性を左右する最重要指標の一つです。人手不足・高齢化が進む中で(警備員47.0%が60歳以上業者数+6.9% vs 警備員ほぼ横ばい)、既存警備員の定着はますます経営課題として重みを増しています。

本記事では、警察庁の一次データが示す業界の離職構造と、業界で観察される定着支援の動き(AI活用事例を含む)を、公表情報の範囲で整理します。

1. 警備業の在職年数データが示す離職構造

警察庁「警備業の概況」の在職年数分布

警察庁「令和6年における警備業の概況」(2024年末時点)による警備員の在職年数分布は以下の通りです。

在職年数割合
1年未満17.6%
1〜3年未満20.8%
3〜10年未満32.0%
10年以上29.6%

出典:警察庁 警備業 / 警察庁 令和6年警備業の概況PDF

この分布が示すもの

  • 3年未満の合計は38.4%(1年未満17.6% + 1〜3年未満20.8%):業界の早期離職層の厚さを示す
  • 3年以上の合計は61.6%(3〜10年未満32.0% + 10年以上29.6%):長期定着層が半数超で存在
  • 短期離職と長期定着の二極化:業界の働き方が「合わない人は早期に離職する / 合った人は長く続ける」という二極構造

この分布は「離職率」そのものではありませんが、業界の早期離職構造を示す代表的なデータとして業界で参照されます。詳細は警備員の在職年数データで整理しています。

業界の高齢化との関係

警備員の47.0%が60歳以上(記事)という業界の高齢化は、離職構造と密接に関連しています。定年後の再雇用として警備業に入る層が多いため、体力的な適応困難による早期離職・年齢による勇退・健康上の理由での離職などが構造的に発生しやすい業界です。

2. 早期離職が起きる構造要因

なぜ入社6ヶ月以内の離職が多いのか

警察庁データには離職理由までは含まれませんが、業界内で語られる要因を整理すると以下の通りです(業界の一般論であり、個別事業者の状況で異なります)。

  • 夜勤・屋外勤務・体力負荷の適応困難:新任警備員が現場の実務負荷に適応できないケース
  • 給与条件と労働負荷のミスマッチ:応募時の期待値と現場実態のギャップ
  • 職場環境:人間関係・教育体制・チームでの受け入れ姿勢
  • 採用時のマッチング不足:業務内容の理解不足・向き不向きの見極めが甘い採用
  • 業界の高齢化と若年層のギャップ:世代間のコミュニケーション課題

業界特性としての「入社直後のリスク」

警備業の新任教育は警備業法上20時間以上と定められており、現場配置前の教育期間が存在します。しかし、実際の現場配置後に「聞いていた仕事と違う」「体力的にきつい」「夜勤が想像以上に負担」などの理由で離職するケースが業界で観察されます。この構造は、業界の離職率を語る上で最も重要な論点の一つです。

KUMOCAN実証データが示す早期離職の実態

警備管制SaaS「くもかん」(運営:株式会社straya)が2026年1月に公表した実証データによると、社内退職者の実態は以下の通りです。

  • 52%:退職者のうち、入社後6ヶ月以内の早期離職が占める割合
  • 22%:入社後0〜1ヶ月で離職する割合

出典:株式会社straya PR TIMES 2026-01-06 / 警備ラボ整理

これは特定事業者の社内データですが、警察庁の在職年数データ(1年未満17.6%)と方向性として整合しています。「入社直後〜6ヶ月」が早期離職の最大の山であることを示す傍証データです。

3. 離職の経営コスト

警備員1名の離職コストの構成

警備員1名の離職には、以下のコスト要素が含まれます(業界の一般的な整理)。

  • 採用コスト:求人媒体費・エージェント手数料・面接・書類選考の人件費
  • 教育コスト:新任教育20時間+業務別教育の実施コスト(教育担当者の人件費含む)
  • 配置調整コスト:欠員による他警備員の勤務調整・現場品質への影響
  • 顧客関係コスト:顧客先での警備員交代による信頼関係の再構築
  • 機会損失:新規案件への対応困難による受注機会損失

これらのコストを金額換算すると相当な水準になりますが、警備会社ごとに具体的な数値は異なります。

業界内で語られる離職回避の経済価値

KUMOCAN の実証データでは、警備員1名の離職回避による年間経済リターンを 約340万円 と試算しています(出典:PR TIMES 2026-01-06)。これは特定の前提に基づく試算値であり、業界平均や公的統計ではありませんが、離職コストの規模感を示す業界内の参照値の一つとして活用可能です。

4. 業界の離職対策と定着支援の動き

業界で観察される定着支援の主な軸

業界内で議論される定着支援策は、以下の軸に分類できます。

  • 採用時マッチング:業務内容・待遇の丁寧な説明、体力・適性の事前確認
  • 新任教育の質向上:警備業法要件(20時間以上)を超えた実践的な教育
  • 早期定着プログラム:入社後6ヶ月以内の集中フォロー
  • メンター制度・OJT:新任警備員へのメンター配置
  • 給与・待遇の改善:業界の労務単価上昇(記事)を末端警備員に反映
  • 配置適正化:警備員の適性・希望に合わせた現場配置
  • AIによる離職予測と早期介入(後述)

AI活用による定着支援の登場:KUMOCAN 事例

警備管制SaaS「くもかん」(運営:株式会社straya)は、2026年1月に 離職予測AI の実証結果を公表しました。約2年分の勤務実績データを機械学習で分析し、リスクスコアに基づいて高リスク層を抽出、経営層・管制担当が早期面談のきっかけ作りに活用できる設計です。

KUMOCAN離職予測AIの主な数値(出典:PR TIMES 2026-01-06):

  • 14%:面談対象者のうち、AIが「離職予備軍」と特定した割合
  • 52%:全退職者のうち、入社後6ヶ月以内の早期離職が占める割合
  • 22%:入社後0〜1ヶ月で離職する割合
  • 340万円:警備員1名の離職回避による年間経済リターン(推計値)

詳細な整理はくもかん離職予測AIの実証結果、サービス自体の詳細はKUMOCANサービス紹介で解説しています。

業界の技術投資と定着支援の関係

警備管制SaaSは従来、配置最適化・教育・勤怠の3軸で差別化が進んできました(警備業SaaS 5社比較)。KUMOCAN の離職予測AIは、「定着支援」という4軸目の登場 として位置づけることができます。他の警備SaaS(KOMAINU・警備フォース・プロキャス警備等)が同領域に追随する可能性はあり、業界のDX動向として観察に値する動きです。

「暗黙知」から「データドリブン」への転換

警備会社の現場では、警備員の退職予兆の察知は 管制担当・隊長の経験と勘 に強く依存してきた領域と業界で観察されます。KUMOCAN の実証は、SaaS×AI がこの暗黙知を データで構造化 する動きの典型例と位置づけられます。今後、業界全体でこうしたデータドリブンな定着支援がどこまで広がるかは、業界の中長期的な論点です。

5. 経営者にとっての離職率マネジメント視点

離職率を経営指標として管理する

離職率は、警備会社経営者にとって以下の経営指標と密接に関連します。

  • 営業利益率:離職コスト(採用・教育・配置調整)が利益を圧迫
  • 契約継続率:警備員交代が顧客の信頼に影響
  • 配置効率:欠員による他警備員への負荷転嫁
  • 技術投資 ROI:DX投資による定着支援の効果測定

経営判断への示唆

業界の離職構造を経営判断に活かすには、以下の視点が有用です。

  • 早期離職に集中投資:入社後6ヶ月以内が最大の離職リスク層
  • 10年以上定着層への配慮:業界全体の29.6%を占める長期定着層は業界の中核人材(在職年数データ
  • 業界平均との比較:自社の離職率が業界統計とどう乖離するかを継続測定
  • 技術投資の段階的検討:DX投資の効果は特定事業者の実証結果に留まる段階、自社適用時は慎重に検証

6. 業界の中長期論点

警備業の離職構造は、業界の高齢化・人手不足と表裏一体の課題です。定着支援は、業界の持続可能性を左右する最重要領域の一つとして、今後5〜10年で業界全体が向き合う論点になると考えられます。

主要な論点

  • 業界標準の定着支援フレームワーク:業界団体・警備業協会による標準化の可能性
  • AI・データ活用の広がり:離職予測AIが業界全体に浸透するかどうか
  • 教育プログラムの標準化:新任教育の質を業界全体で底上げできるか
  • 中小事業者のリソース制約:定着支援の技術投資は中小事業者にとってハードルが高い可能性
  • 業界統計の充実:離職率の業界統計そのものの充実が必要(現状は在職年数分布が主要データ)

7. 出典・参考データ

8. 警備ラボの関連レポート


編集部の見立て:警備業の離職率は、業界の高齢化・人手不足・DX投資の3つの潮流の交点に位置する経営指標です。警察庁データが示す「入社1年未満17.6%」という早期離職層の厚さは、業界の中長期的な持続可能性を左右する数字として重要です。KUMOCAN の離職予測AI事例は、業界の暗黙知を「データ × AI」で構造化する先行事例として観察に値します。他の警備SaaS事業者・大手警備会社がこの領域にどう動くかは、業界のDX動向の中で継続的に追跡する価値があります。警備ラボとしては、業界の離職構造データと定着支援の動きを継続的に整理し、業界の意思決定インフラとしての役割を果たしていきます。