警備業の認定を取得して開業しても、受注がなければ事業は始まりません。開業直後の 最大の課題は安定受注の確保 であり、最初の3〜6ヶ月で受注ルートを構築できるかが事業継続を左右します。

本記事では、警備会社が開業直後にどう営業するかを、 元請けからの下請契約・建設会社直営業・自治体入札・マンション管理組合・イベント主催者 の5つの受注ルート別に整理し、営業ツール・見積もりの作り方・単価交渉・信頼構築の進め方を業界視点で解説します。これから開業する経営層・開業直後の経営者向けの実務ガイドです(2026年6月時点)。

※ 本記事は2026年6月時点の公開情報・業界一般論に基づきます。労務単価・契約条件・自治体の入札制度は地域・時期で変動するため、実際の営業活動時には各自治体・各発注者の最新公式情報、複数の見積もりでの確認を推奨します。本記事は法的助言・営業保証ではありません。

警備業の発注構造を理解する|元請・下請・直契約

最初の営業を考える前に、警備業の発注構造を理解することが重要です。

発注構造の3層

警備業務の発注構造は、大きく以下の3層に分かれます。

階層役割主な発注元
元請け発注者と直接契約建設会社・大手企業・自治体・管理組合
一次下請け元請けからの再委託受注元請け警備会社
二次下請け一次下請けからの再委託一次下請け警備会社

新規開業の警備会社は、元請け契約を直接獲得するハードルが高いため、 当初は元請けの一次下請けとして参入する のが現実的な戦略です。事業実績を積み重ねながら、直契約・元請けポジションへステップアップしていきます。

元請・下請間の経済構造

下請契約は中間マージンが発生するため、直契約より単価が低くなります。一方で営業コストが低い・案件供給が安定するメリットがあります。

比較軸元請(直契約)下請契約
単価高めマージン控除で低め
営業コスト高い低い
案件供給不安定安定
契約交渉自社主導元請け主導
信頼構築直接元請け経由

業界の発注構造に関する詳細は警備業者の規模別構成と発注傾向、警備会社の選定軸(発注側視点)は警備会社の選び方ガイドで整理しています。

受注ルート①|元請け警備会社からの下請契約

開業直後の最も現実的な受注ルートが、元請け警備会社からの下請契約です。

元請け開拓のルート

① 地域の警備業協会

各都道府県の警備業協会には、地域の元請け中堅・大手警備会社が会員として登録されています。会員になることで業界ネットワークへのアクセスが得られます。

最新の協会情報は全国警備業協会および各都道府県警備業協会の公式情報で確認できます。

② 元請け各社の協力会社募集

中堅・大手の警備会社は自社のキャパシティを超える案件を協力会社に外注します。元請け各社の公式サイトに「協力会社募集」ページが設置されていることがあります。

③ 知人・業界ネットワーク

業界内で実務経験のある代表者・幹部の場合、前職時代の業界知人を通じた紹介ルートが有効です。指導教育責任者を中途採用した場合、その人物のネットワークが営業資産になることもあります。

④ 業界紙・業界メディア

警備業界向けの業界紙・業界メディアでは元請け各社の協力会社募集情報が掲載されることがあります。

元請けが下請選定で見るポイント

元請けが下請契約を結ぶ際の主な選定ポイントは次のとおりです。

選定ポイント確認内容
警備業認定認定番号・業務区分の対応
指導教育責任者配置状況・有資格者の経歴
賠償保険補償額・補償範囲
装備・制服元請け仕様に対応可能か
人員体制必要人数を安定供給できるか
経営の健全性反社チェック・財務状態
過去実績同種案件の実績有無

新規開業会社の場合、過去実績がないため、 代表者・指導教育責任者の経歴試験的な小規模案件 からのスタートが一般的です。

下請契約の典型的な進め方

  1. 元請けへのアプローチ・面談
  2. 自社プロフィール・装備・体制の説明
  3. 試験案件(小規模・短期)の受注
  4. 実績評価
  5. 継続的な下請契約
  6. 案件規模・業務区分の拡大

受注ルート②|建設会社・工事会社への直営業

2号警備(交通誘導・雑踏)を中心に展開する場合、建設会社・工事会社への直営業が重要な受注ルートになります。

直営業の対象先

対象先案件特性
中小建設会社工事現場の交通誘導
道路工事会社道路工事の交通誘導
解体工事会社解体現場の安全管理
電気・通信工事会社インフラ工事の現場警備
土木工事会社公共工事の現場警備

工事現場の警備発注の流れは工事現場の警備発注、交通誘導の費用相場は交通誘導 警備 費用の決まり方で整理しています。

直営業の進め方

① ターゲット選定

地域・業種で建設会社・工事会社をリストアップします。市区町村の建設業者名簿、商工会議所の会員名簿、地域のタウンページ、Webサイト検索などが情報源です。

② アプローチ

訪問・電話・郵送(パンフレット同封)からのアプローチが基本です。建設業界は紹介ネットワークが重視されるため、既存取引先からの紹介ルートも有効です。

③ 提案

警備サービスの内容・単価・対応エリア・対応人数を整理した提案書を準備します。建設会社が求める対応速度・夜間対応・休日対応への対応可否を明確に提示します。

④ 試験受注

最初は1〜2日の小規模案件を試験受注し、運用品質を確認してもらいます。

⑤ 継続契約

評価が得られれば、月単位・年単位の継続契約に展開します。

受注ルート③|自治体・公共工事への入札

3号警備や1号常駐警備で、自治体・公共工事への入札参加が中長期の重要ルートになります。

入札参加の準備

① 入札参加資格審査の申請

各自治体の入札参加資格審査に申請し、登録を受ける必要があります。書類提出時期・必要書類は自治体ごとに異なります。

② 主要な提出書類

  • 経営状況の証明(決算書等)
  • 営業実績
  • 警備業認定証の写し
  • 警備員指導教育責任者の選任証明
  • 警備員数・装備の一覧

③ 登録までの期間

申請から登録まで1〜3ヶ月程度が一般的です。年度始まりまたは半期ごとの定期受付の自治体が多い傾向です。

入札参加の現実

新規開業1年目から入札参加が認められる自治体もありますが、 過去の業務実績を必須要件 とする自治体もあります。最初は実績要件の緩い自治体・小規模工事から参加し、徐々に実績を積み重ねる戦略が現実的です。

入札の競争環境

自治体入札は競争が激しく、地元中堅・大手警備会社が常連となっているケースが多い傾向です。新規参入が落札するには、価格競争力か地域密着性での差別化が必要です。

受注ルート④|マンション管理組合・店舗オーナー

1号施設警備の重要な受注ルートが、マンション管理組合・店舗オーナーです。

マンション管理組合への営業

アプローチルート

ルート特徴
マンション管理会社経由管理会社が警備会社を選定
管理組合理事会へ直接提案自主管理マンション
既存契約の更新タイミング提案チャンス

マンション警備の発注ガイドはマンション管理組合の警備発注ガイドで整理しており、発注側の検討ポイントが理解できます。

提案のポイント

  • 巡回頻度・時間帯
  • 緊急対応の体制
  • 過去のトラブル対応事例
  • 月額単価・契約期間
  • 賠償保険の補償内容

店舗オーナーへの営業

対象店舗

  • 大型商業施設
  • 小売チェーン
  • 飲食チェーン
  • 駅前商業エリア

店舗警備の発注ガイドは店舗・小売の警備発注ガイドで整理しています。

提案のポイント

  • 開店・閉店時の警備
  • 万引き対策の巡回
  • 防犯設備との連携
  • 緊急時の駆けつけ対応

受注ルート⑤|イベント主催者

2号警備(雑踏)と1号警備の組み合わせで、イベント主催者への営業も有効です。

対象イベント

イベント種別警備需要
屋外フェスティバル雑踏警備・会場警備
スポーツイベント雑踏警備・観客整理
花火大会雑踏警備・群衆整理
商店街イベント交通整理・雑踏警備
企業イベント受付・会場警備

イベント警備の発注ガイドはイベント主催者の警備発注ガイドで整理しています。

営業のポイント

  • 過去の同種イベントの実績
  • 必要人数の安定供給力
  • 雑踏警備の指導教育責任者配置
  • 警察・自治体との連絡体制
  • 緊急時対応のフロー

イベントは時期集中型のため、人員確保・他社協力体制の構築が受注の前提条件になります。

営業ツール|パンフ・ホームページ・名刺

営業活動には基本的な営業ツールが必要です。

営業パンフレット

会社案内・サービス案内を1〜数ページにまとめた営業資料です。

含めるべき項目:

  • 会社概要(社名・代表者・認定番号・所在地)
  • 業務区分・対応エリア
  • 警備員指導教育責任者の配置
  • 賠償保険の補償内容
  • 主要装備・制服
  • 料金体系の概要
  • 連絡先・問い合わせ先

紙パンフレットだけでなく、PDFでの電子配布版も準備しておくと、訪問後のメールフォローや、Web問い合わせ対応で活用できます。

ホームページ

法人発注を獲得するには、企業ホームページの整備が事実上必須です。

必須コンテンツ

  • 会社概要
  • 警備業認定番号の明記
  • 提供サービス
  • 対応エリア
  • 業務実績(守秘義務に配慮)
  • 問い合わせフォーム
  • プライバシーポリシー

HP制作費の目安

WordPress等のCMSベースで自社制作する場合は数万円規模、制作会社に依頼する場合は数十万円〜100万円規模が一般的です。開業資金計画への組み込みは警備業 開業資金で整理しています。

名刺

法人取引の基本ツールです。

含めるべき項目:

  • 会社名・所在地・電話・FAX
  • 代表者名・役職
  • 警備業認定番号
  • 業務区分
  • メール・ホームページURL
  • QRコード(HP誘導用)

警備業の場合、認定番号の明記が信用情報として機能します。

営業車両・装備の見栄え

訪問営業で運転する車両、装備品の見栄えも、間接的な営業ツールです。新品である必要はありませんが、清潔感・統一感が法人取引での信頼性につながります。

初回見積もりの作り方

新規見積もり依頼を受けた場合の見積書作成のポイントです。

見積書の必須項目

項目記載内容
業務内容警備の種別・配置場所
配置人数必要警備員数
配置時間開始・終了時刻
配置日数期間・曜日
単価1名1時間 or 1名1日単価
諸経費装備費・管理費・諸雑費
深夜・休日割増割増率の明示
賠償保険加入状況の記載
有効期間見積有効期限
会社情報認定番号含む

見積もり前の確認事項

見積もりを正確に作るには、発注者から以下を確認する必要があります。

  • 警備の業務区分(1〜4号のどれか)
  • 配置場所の状況
  • 配置時間帯
  • 配置日数・期間
  • 必要な有資格者の有無
  • 緊急対応の有無
  • 報告書の様式
  • 支払条件

要件定義の発注側視点は警備会社の選び方ガイドで整理しています。発注側の要件定義書フォーマットを理解しておくと、見積もり対応の精度が上がります。

単価設定の原価構造

単価設定には原価構造を踏まえた計算が必要です。

原価項目内訳
警備員給与時給 × 時間
社会保険料給与の約15%
装備・消耗品制服・装備の償却
移動費現場までの交通費
管理費営業所運営費の配賦
利益適正利益率

公共工事の労務単価は警備の労務単価【最新版】、業界の労務単価予測は警備の労務単価予測で確認できます。民間取引の単価も労務単価をベンチマークとして使われるため、必ず把握しておきましょう。

単価交渉のコツ

開業直後は「単価を下げてでも受注したい」気持ちが先行しがちですが、原価割れの単価で受注すると赤字運営の入口になります。

単価交渉の原則

① 原価を明確にする

人件費・社保・装備・移動費・管理費を正確に把握し、原価ラインを死守します。

② 業界相場を把握する

地域・業務区分別の労務単価動向は警備の労務単価【最新版】で確認できます。労務単価の業界トレンドは警備員の賃金トレンド、業界全体の経営構造は警備業界の概況で整理しています。

③ 価値訴求で交渉する

単価競争で勝負するのではなく、「指導教育責任者の配置」「賠償保険の補償額」「現場対応速度」「緊急対応体制」など、サービスの質で差別化することで、適正単価を確保しやすくなります。

④ 中長期視点で交渉する

開業直後は試験受注で実績作りを優先する判断もあり得ますが、 継続契約での単価改定条項 を明文化することで中長期の単価是正の余地を残します。

法定単価との連動条項

公共工事の労務単価は毎年改定されるため、契約期間が長い案件では「最低賃金改定・公共工事労務単価改定との連動」を契約に明記することで、年度途中の単価調整が可能になります。

信頼構築の重要性

警備業界は信頼ベースの長期取引業界です。短期の営業テクニックよりも、長期的な信頼構築が受注の安定性を生みます。

信頼構築の基本

① 約束を守る

配置時間・人数・装備・報告書の提出など、契約で約束した事項を確実に履行します。当日欠員・遅刻・装備不備は信頼を一気に損ねます。

② 報連相を徹底する

現場でのトラブル・通常と異なる状況は、即座に発注者に報告します。隠蔽・後出しは取引解消の最大要因です。

③ 報告書の質を上げる

業務報告書は警備業務の品質を示す重要書類です。手書きの簡素な報告書から、写真付きデジタル報告書へのアップグレードは、発注者からの評価向上に直結します。

報告書のデジタル化動向は警備業の報告書デジタル化で整理しています。

④ 配置警備員の質を維持する

法定教育の実施・現任教育の充実は、現場の運用品質を維持する基盤です。教育違反のリスクは警備業の教育違反処分動向で整理しています。

⑤ 紹介を依頼する

満足度の高い既存顧客から、新規顧客の紹介を依頼する文化を作ります。紹介経由の受注は受注率が高く、営業効率が圧倒的に良いルートです。

営業活動のスケジュール

開業から半年〜1年の営業活動スケジュール例を整理します。

開業前1〜3ヶ月

  • 認定取得見込みのアナウンスを業界知人・前職関係者に展開
  • 営業ツール(パンフ・名刺・HP)の制作
  • 元請け候補のリストアップ
  • 自治体入札参加資格審査の申請準備

開業直後の1〜3ヶ月

  • 元請け各社への営業訪問・面談
  • 試験案件の受注獲得
  • 建設会社・工事会社への営業展開
  • マンション管理会社・店舗オーナーへの提案
  • ホームページからの問い合わせ対応

開業4〜6ヶ月

  • 試験案件の運用品質を評価してもらい継続契約化
  • 入札参加(資格登録完了後)
  • 紹介ルートの開拓
  • 営業ツールの改善

開業7〜12ヶ月

  • 継続受注の安定化
  • 新規業務区分への展開
  • 新規エリア展開の検討
  • 規模拡大による法人成り検討

開業1年目の経営判断は警備業 開業ガイド、開業資金計画は警備業 開業資金で整理しています。

まとめ|最初の営業の3原則

警備会社の最初の営業は、最終的に次の3原則に集約されます。

  1. 複数の受注ルートを並行開拓:元請け下請・直営業・入札・管理組合・イベントの5ルートを並行展開して特定取引先依存を避ける
  2. 原価を死守した適正単価で受注:開業直後の低単価受注は赤字運営の入口、原価+適正利益率を死守
  3. 長期信頼構築で紹介を生む:約束履行・報連相・報告書品質で信頼を積み重ね、紹介ルートを開拓

警備業の営業は、短期の派手な成果より、 長期の信頼構築と地道な顧客基盤の積み重ね が事業継続を生む業界です。開業1年目の苦しい時期を乗り越えれば、継続受注ベースで安定運営に近づきます。

警備会社の選び方(発注側視点)は警備会社の選び方ガイド、入札仕様書の読み方は警備の入札仕様書の読み方、業界の経営構造データは警備業界の概況、業者規模別の発注傾向は警備業者の規模別構成もあわせてご活用ください。本記事は2026年6月時点の公開情報・業界一般論に基づきます。具体的な単価・契約条件・自治体入札制度は各発注者・各自治体の最新公式情報でご確認ください。