警察庁CSVデータが示す**機械警備対象施設+7.8%警備員総数+0.1%**の対比は、警備業界の機械化が静かに進んでいる事実を裏付けています。一方で、近年「AI警備」「AI監視カメラ」というキーワードが業界誌でも頻出するようになり、機械化とAI化が混同されたまま語られる場面も増えてきました(2026年6月時点)。

本記事では、機械警備の市場データを「機械化率」という編集部独自の指標で再定義し、その上にAI化というレイヤーを重ねたときに何が見えるかを整理します。元データは 機械警備市場+7.8%成長(/report/kikai-keibi-shijou/) に集約しています。

※ 本記事は警察庁「令和6年における警備業の概況」の実値をベースに、編集部が独自指標を組み立てたものです。機械化率およびAI化に関する評価は編集部の概算・見立てを含みます。各社の個別実装は公式サイト・プレスリリースで公開されている範囲のみを引用しています。

「機械化率」という新しい指標で読み直す

なぜ既存指標では見えにくいのか

警察庁の概況は、機械警備対象施設数・警備員総数・業者数をそれぞれ独立の系列で公表しています。個別の数値はすでに 機械警備市場+7.8%成長警備業者+6.8% vs 警備員横ばい で整理しましたが、「警備業全体としてどれくらい機械に置き換わったか」を直感的に掴める比率は公表されていません。

そこで本稿では、編集部独自の便宜的な指標として 機械化率(仮)= 機械警備対象施設数 ÷ 警備員総数 を定義します。これは「警備員1人あたりが背負う機械警備施設の件数」とも読める比率で、業界の構造変化を一本の数字で追跡するのに使えます(編集部見立て)。

5年分で機械化率を出してみる

機械警備対象施設警備員総数機械化率(件/人)
20203,176,544588,3645.40
20213,262,011約58.5万約5.58
20223,296,399約58.4万約5.65
20233,231,699約58.5万約5.52
20243,423,470587,8485.82

警備員総数は2020年と2024年の正確値(警察庁発表)以外は約58万人台で大きく動いておらず、中間年は約58万人台の前提で概算しています。5年間で機械化率は5.40から5.82へ約+7.8%上昇、警備員1人が背負う機械警備施設は5.4件から5.8件相当に増えた計算です(出典:警察庁 警備業の状況)。

この指標は何を測っていないか

機械化率はあくまでマクロ構造を読むための便宜的な指標で、以下は反映していません。

  • 業務区分別の人時稼働(交通誘導2号・輸送3号は機械化対象外)
  • 1施設あたりの契約規模・センサー数
  • 機械警備事業者の基地局あたりの効率
  • 警備員の専門領域(機械警備の現場対応員 vs 常駐警備員)

業務区分別の構成比は 業務区分別の業者構成 で整理しています。

機械化とAI化は別レイヤーで進む

「機械警備」の中身を分解する

警備業法上の機械警備業務(1号警備業務の機械警備認定)は、構造を分解すると次の3つのレイヤーで成り立っています。

レイヤー主要技術公的統計上の扱い
センサー層侵入感知センサー / 火災検知器 / 開閉センサー機械警備対象施設として計上
通信層専用回線 / IP通信 / 携帯回線基地局数として計上
推論層AI画像認識 / 異常行動検知 / 顔認証公的統計に未収録

警察庁の概況が拾っているのは前の2層、つまり従来の機械警備(センサー+通信)が中心です。推論層、つまりAIによる映像・行動の解釈は、機械警備の上に乗る別レイヤーとして広がりつつあるものの、業界全体としてどの程度普及しているかを示す公的な統計値は本稿執筆時点で見当たりません(編集部見立て)。

機械化≠AI化を区別する意味

機械化とAI化を分けて議論する意味は、コスト構造と意思決定の質が違うからです。

  • 機械化:センサー設置と回線契約の組み合わせ。「侵入があったか」「火が出たか」の2値判定が中心
  • AI化:カメラ映像から「不審行動か」「立ち入り権限があるか」を推論。判断の質・粒度が増える

機械化は契約と装置の問題ですが、AI化は推論精度と運用ノウハウの問題で、両者は別の投資・別の人材を必要とします。機械化率が上がってもAI化が同時に進むとは限らない のは、この構造の違いに起因します(編集部見立て)。

公開情報で見る各社のAI実装

ここでは公式サイト・プレスリリースで確認できる範囲のAI関連サービスを整理します。各社の売上構成比・契約数・導入効果といった数値は信頼できる横断的な公開データが乏しいため、本稿ではサービスが公表されている事実のみを扱います。

ALSOK(綜合警備保障)

ALSOK公式サイトでは、顔認証システム「ALSOK顔認証」、AI画像解析を活用したセキュリティサービスが公表されています。オフィス入退室管理や、AIによる映像解析でのリスク検知の文脈で各種ソリューションが提供されています。具体の契約数・導入効果は公式IRや個別プレスを参照する必要があります。

セコム

セコムは「セコムAI for セキュリティ」など、AI画像認識を組み合わせたセキュリティソリューションを公式サイトで公表しています。商業施設・オフィスビル向けに、機械警備の延長線上でAI解析を組み込む方向性が打ち出されています。同社の場合もサービスの存在は公開情報で確認できますが、AI化率や売上構成は公開ベースでは追えません。

SEQSENSE(警備ロボット)

SEQSENSEは警備ロボット「SQ-2」をオフィスビル巡回用途で提供している企業として知られ、自社公式サイトで導入事例が公表されています。ロボットによる巡回警備は、機械警備の「センサー型」とも従来の「常駐型」とも異なる第3の選択肢として登場しており、AI化レイヤーを物理的に動かす一例です。

その他のAI監視カメラ・画像解析

ABEJA、NTT Comなど、警備領域に画像解析プラットフォームを提供する事業者の存在は公開情報で確認できます。ただし、これらは警備業法上の警備業者ではなく技術提供側で、機械警備事業者数(542社)の中には数えられていません。AI化のレイヤーは、警備業界と隣接技術業界のクロスオーバーで動いている、というのが構造的な特徴です。

各社の最新サービスラインアップ・対応業務は変動するため、検討の際は必ず公式サイトと直近のプレスリリースで確認してください。本稿の引用範囲は2026年6月時点で各社の公式ページに掲載されていた情報に限ります。

機械化率の上昇が業界に意味すること

警備員側への影響

機械化率(編集部見立てで5.40→5.82)が上昇しても、警備員総数は+0.1%で横ばいです。これは、 (1) 機械警備対応の駆けつけ要員という新しい労働需要が生まれている (2) 常駐警備員のうち定型監視の比重が下がり、判断業務の比重が上がる (3) 機械警備業務管理者の資格価値が上がる、といった内的な役割再配置を伴います。労務単価とキャリアの関係は 警備員の年収完全ガイド警備員の資格・検定一覧 で整理しています。

警備会社側への影響

機械化率の上昇は、警備会社にとっては「常駐人時で売る」から「機械+運用で売る」への収益構造シフトを意味します。機械警備の認定を持つ事業者は1号警備全体6,974社のうち542社(5.0%)と限定的で、参入には基地局構築と認定取得が必要です。一方、参入できれば月次課金型の安定収益が見込める領域でもあります。中小事業者の生存戦略は 中小警備会社の差別化 もあわせて参照してください。

発注者側への影響

機械化率の上昇は発注側にも示唆を与えます。常駐 vs 機械 vs ハイブリッドという選択肢が常識化し、新業態(24時間営業店舗・無人店舗)では最初から機械警備+AIアラートの組み合わせを前提に発注を組むケースが増えていく見立てです(編集部見立て)。発注ガイドは 警備会社の選び方ガイド を参照してください。

AI化レイヤーをどう測るか(編集部の試案)

公的統計に未収録のAI化率を、業界として今後どう測るかは未解決の論点です。本稿では将来の議論のたたき台として、編集部試案を3つ示します(編集部見立て)。

試案①|AI画像解析を組み込んだ機械警備契約の比率

機械警備対象施設のうち、AI画像解析サービスが組み合わさっている比率を年次集計するアプローチ。事業者側からの自主開示を前提とすれば実現可能ですが、警察庁の概況に組み込まれていない以上、業界団体ベースの集計が必要です。

試案②|AI監視カメラ稼働台数

警備領域で稼働するAI解析機能つき監視カメラの台数を推計する方法。カメラメーカー・画像解析プラットフォーム事業者からの開示が必要で、警備業者数より広い母集団を扱うことになります。

試案③|AI関連求人比率

警備業界における「AI」「画像解析」を要件に含む求人比率の年次推移。人材市場側からAI化を間接的に読む方法で、警備業界の労働市場データと組み合わせる必要があります。求人動向の元データは 警備業界の人手不足 を参照してください。

いずれも公的統計が現状カバーしていない領域で、業界として共通指標を持つには時間がかかる見立てです(編集部見立て)。

このデータの限界と注意点

  • 機械化率は編集部の便宜指標:警察庁・業界団体の公式指標ではありません。機械警備対象施設数と警備員総数の比率を取った概算で、稼働実態を直接反映するものではありません
  • 2021〜2023年の警備員総数は概算:警察庁の概況は2020・2024の総数は明示しており、中間年も公表されていますが、本稿では便宜上「約58万人台」として丸めています。正確な年次値は警察庁の各年の概況を参照してください
  • AI化率は公的統計に未収録:本稿の各社事例は公式サイト・プレスリリースの公知情報の引用にとどめており、業界全体のAI化率について断定的な数値は提示していません
  • 「AI監視カメラ」「ホームセキュリティAI」は文脈で意味が変わる:本稿の対象は警備業法上の警備業務に組み込まれるAI解析で、消費者向け広告のAIカメラとは外延が異なります
  • 個別企業の比較ではない:本稿はALSOK・セコムなどの優劣を論じる記事ではありません。各社比較は ALSOK vs セコム 業界比較 を参照してください

まとめ|機械化率5.82 + AI化レイヤーをどう読むか

  1. 機械化率は5年で5.40→5.82:警備員1人あたり機械警備約5.8件相当の構造に(編集部見立て)
  2. 機械化≠AI化:センサー+通信の機械化の上に、画像認識・行動検知のAI化レイヤーが乗る二層構造
  3. AI化率は公的統計に未収録:各社事例は公開情報で確認可能だが、業界全体の普及率を示す公式指標は本稿執筆時点で存在しない

機械化率の上昇は警備員総数横ばいの中で進んでおり、人を減らすシフトというよりは人時の再配置を伴う構造変化として読むのが妥当です。AI化はその上に乗る別レイヤーで、機械化と同じペースで自動的に進むわけではありません。機械警備の認定を持つ542社の中で、AI化に踏み込めるかどうかが次の差別化軸 になる見立てです(編集部見立て)。

元データの詳細は 機械警備市場+7.8%成長、業者と警備員の対比は 警備業者+6.8% vs 警備員横ばい、人手不足の構造は 警備業界 人手不足の正体 をあわせてどうぞ。機械警備そのものの解説は 機械警備とは何か、DX領域の周辺記事は DXカテゴリTOP を参照してください。出典は 警察庁 警備業の状況(2026年6月時点)。